【競馬】凱旋門賞へ、キズナ、オルフェが見せた底知れぬ「能力」 (2ページ目)

  • 土屋真光●文 text&photo by Tsuchiya Masamitsu

 その後、直線を迎えて武豊騎手にゴーサインを出されると、キズナは一頭、また一頭と前の馬をかわしていった。先頭に並ぶと、佐々木調教師も「止まるな! 止まるな!」と、愛馬に懸命の声援を送った。そしてキズナは、内から鋭く抜け出してきた英国ダービー馬の猛追を抑えて1着でゴールした。

 すべての不安を吹き飛ばしての快勝だった。本番を見据えての試走は、最高の結果だった。まして、ハナ差の勝利ながら、2着に負かした相手は、今年の英国ダービーを制したアイルランドの名門、A・オブライエン厩舎のルーラーオブザワールド(牡3歳)。加えて、凱旋門賞の前売りオッズでオルフェーヴルらを抑えて1番人気に推されていた地元フランス馬のフリントシャー(牡3歳)まで4着に退けた。欧州3歳世代の、芝2400m戦線の2トップと言える存在を撃破したのだから、その価値は大きい。

「意識して、早めに動くようにしましたが、思いのほか反応が良くて、(直線では)少し待ってから追い出しました。正直、コンディションが本来の感じではない中で、よく凌いでくれました」

 レースから引き上げてきた武豊騎手がそう言って、キズナのポテンシャルの高さを称えると、佐々木調教師も勝利の余韻をかみ締めながら、本番に向けての自信をのぞかせた。

「まずは斤量58kgをこなしてくれたことが大きい。馬場に関しては、滑るような馬場ではなく、柔らかい馬場だったことが、この馬にはかえって良かったと思います。本番は斤量が2kg減って、しかもこの馬自身の上積みも相当あるはず。手探りだったものが、これで見えてきたかな」

 日本ダービー馬による、初の3歳時での凱旋門賞挑戦。前哨戦では、初物づくしの課題をすべてクリアし、そうそうたる有力馬をまとめて撃破した。「凱旋門賞に強い」と言われる3歳馬だけに、俄然注目も高まるはずだ。

「せっかく挑戦するんだから、人気にならないと面白くない。これでさらに、スタッフみんなの気も引き締まります」

 本番では、この日負かした相手も巻き返しを図ってくるだろうし、古馬との初対決が待っている。悲願達成には、まだまだ越えなければいけない"壁"がある。佐々木調教師は、本番へ向けて改めて気合いを入れ直した。そして、最後にこう言って締めくくった。

「ライバルは、オルフェーヴルです」

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