【競馬】「長距離輸送」は、競走馬にどんな影響を及ぼすのか (2ページ目)

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 だから、競馬場に到着してからは、担当者がほとんど付きっ切りで馬の世話をしていることが多いです。ちょっとした変化も見逃さないように馬の状態を常にチェックして、何かあればすぐに対応できるようにしています。また、輸送や環境の変化によるストレスをできるだけ軽減させるために、レース前日ではなく、前々日に競馬場に移動して、環境に対応するための時間を少しでも長くしたり、1頭で移動させずに、自厩舎の馬と必ず2頭で移動して、なるべく普段と同じような環境を作ったりと、厩舎によって、いろいろな工夫をしていますね。

 それでも、私が若い頃は、関東馬が関西に遠征するのは、GIの大きいレースくらい。条件戦などで、関西に行くようなことは滅多になかったですから、輸送に気を使うのは、年に何回かのことでした。それが今では、下級条件のレースでも、関東馬が関西へ、関西馬が関東へ、頻繁に行き来するようになりました。昔に比べたら、道路事情もよくなって、輸送時間が短くなっているので、馬にかかる負担は減っているかもしれませんが、環境の変化で体調を落とす馬がいるのは変わりません。その分、担当する関係者の方々の苦労は増えていると思いますよ。

――逆に、輸送を苦にしない馬もいるのでしょうか。

秋山 もちろん、たくさんいます。そういう馬は、初めての競馬場に行っても、まったく動じることがありません。図太いというか、落ち着きはらっていますね。それらが、まさに「輸送に強い馬」です。

――ところで、輸送の時間よりも環境の変化が問題ということは、関東の馬でも、中山競馬場は合うけど、東京競馬場は合わない、ということがあるのでしょうか。

秋山 あるかもしれませんね。とはいえ、長い間滞在したり、何度も同じ場所に行ったりすることで、馬はその環境に慣れていきますから、関東の馬が関東の競馬場で体調を崩すようなことはほとんどないと思います。

 あと、最近は輸送の負担を軽減する手段もあります。例えば、関西のレースに出走するために、早々に関西の栗東トレセンに入って準備をすることができる「栗東留学」というものがあります。関東馬にとっては、とても好都合な手段で、何よりレースまでに新たな環境に慣れることができます。そのうえで、レース当日に栗東トレセンから競馬場に行くので、輸送距離が短くて済みます。関東から直接競馬場に連れていくよりも、明らかに馬の消耗は少なく、関西馬とほぼ同じ条件でレースに臨めます。実際、その効果は出ていて、関東馬が関西のレースでも結果を出しています。最近では、アユサンが「栗東留学」をしていて、見事に桜花賞を制しました。
(つづく)

秋山雅一(あきやま・まさかず)
  1955年7月28日生まれ。千葉県出身。父・史郎氏が中山競馬場で開業していた調教師で、美浦トレセンが完成した1978年に父の厩舎で助手として働き始める。1991年に調教師免許を取得し開業すると、翌年には18勝を挙げて優秀調教師賞を受賞。2001年には、富士S(クリスザブレイヴ)、七夕賞(ゲイリートマホーク)と重賞を制覇した。2011年、惜しまれながら引退。現在はトレセン近郊の育成牧場でその手腕を振るっている。

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