【育将・今西和男】「恩返ししなければ」 高木琢也が決意した理由

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko

『育将・今西和男』 連載第3回
門徒たちが語る師の教え V・ファーレン長崎監督 高木琢也(1)

2013シーズンから、V・ファーレン長崎の指揮を執る 高木琢也監督 ©VVN2013シーズンから、V・ファーレン長崎の指揮を執る 高木琢也監督 ©VVN

 V・ファーレン長崎の練習後、高木琢也監督がメディアの囲み取材を受けている。通常トレーニングの後は疲労に加えて、練習中に見えたチームの課題分析に早く取り組みたくて気が急(せ)くもので、ぞんざいに扱う指導者も少なくない。特に高木はミーティングで選手に見せる試合映像の編集作業も人任せにせずに自ら行なっているので、時間はいくらあっても足りない。それでも彼は記者たちの質問に対して184センチの長身を折りたたみ、それぞれの目を見て丁寧に答える。ミステリーの謎解きを話すように、前節の布陣の意図やスカウティングの成果などを綺麗な敬語でとつとつと語る。朴訥で誠実な性格が見て取れる。

 すべての質問が終わり、囲みが解けるとこちらを向いて「あそこでやりましょう」と練習場の会議室に招かれた。
 
「今西さんのことですね」。少し間をおいて続けた。「元々僕は大商大でサッカーをやってはいたんですが、自分がサッカー選手として、飯を食べていこうともいけるとも思っていなかったんです。当時はJリーグの前で日本サッカーリーグ時代でしたが、そういうレベルでプレーできるとも思っていなかったので、卒業したらサッカーはもう辞めるつもりでいたんです」

 しかし、大学3年の春休みに転機が訪れる。長崎県北有馬町(現在、南島原市)の実家に里帰りしていたところ、大学から一本の電話が入った。「マツダのサッカー部の人が、君に会いに行きたいと言っているから、時間を作っておきなさい」。それが今西だった。

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