ありがとう。GK山郷のぞみの残した「なでしこ精神」

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

12月特集 アスリート、現役続行と引退の波間 (14)

 山郷のぞみ(ASエルフィンさいたま)が今シーズンでピッチを去った。

 日本女子代表として96試合、なでしこリーグでは前人未到の326試合ゴールを守り抜いた。高校からサッカーを始めた遅咲きながら、1997年に代表入りを果たす。しかし、2000年のシドニーオリンピック出場は逃した。その後訪れた日本女子サッカーの低迷期を支えたが、北京オリンピックメンバーから落選するなどの苦労も経験。そこを乗り越え、再びドイツワールドカップで代表に選出され、世界制覇――本当に多くの試練が山郷を待ち受けていた。

女子サッカー界の低迷期を支え、絶対的な守護神だった山郷のぞみ女子サッカー界の低迷期を支え、絶対的な守護神だった山郷のぞみ 選手ひとりひとり、それぞれの色があり、それがまた見るものを惹きつける。それでも、彼女が歩んだ道はとりわけ多くの彩(いろど)りに満ちていたように思う。

 最後のゲームとなったのは12月14日、皇后杯3回戦、伊賀FCくノ一戦。対戦相手が最初に所属した伊賀だったことにも運命を感じる。DFのポジションや、マークの確認、目まぐるしく変わっていく戦況を的確に味方に伝えていく山郷。エルフェンの攻勢でゲームが進むが、警戒していた相手FWミューウィに2失点を喫す。後半1点を返すも、残り3分でダメ押しとなる3点目を入れられてしまった。この最後の1失点を山郷は何度も悔しがった。

「相手の方が周りが見えてたし、自分から1対1を仕掛けてしまった。食いついちゃった!って感じ。あ~なんでもっと我慢できなかったんだろう」(山郷)

 最後の試合までいつもと同じ温度でプレイを分析する。実に彼女らしいと思わずにはいられない。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る