1年間のブランクを経てトライアウトに参加した最年長GK (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

「ラインを揃えろ」

 バックラインのバランスが崩れかかると、すかさず若いディフェンダーに注意を促した。中央の選手のポジションがずれなければ、GKとしてはなんとか対応できる。

 オフサイド気味に右サイドを破られたシーンは、小澤らしさが顕著に出ている。クロスボールに対して必死に身を挺したセンターバックに、彼はねぎらいの言葉をかけた。実際はそのディフェンダーに当たったボールがゴールに入りそうになり、GKである彼がそれを防いだのだが、彼は体を投げ出して守ろうとした心意気を褒めたのだった。仲間の気持ちを盛り立てることで自信がつく。彼はそれがチームの強さになることを経験的に知っていた。

 小澤のチームには、タイ、インドネシア、ベトナム人の6選手が入り、他チーム以上にコミュニケーションが難しく、東南アジアの選手はいずれも体格差やプレイリズムの違いに戸惑っていた。7対7のミニゲームでは、実際にレベル差は大きかった。しかし、小澤のチームはフルコートマッチでは1-0と勝利を収める。彼の叱咤がチームに力を与えた。

「今年1年の一区切りがつきましたね」

 トライアウト後、喫茶店でフルーツを盛り合わせたシフォンケーキを食べながら、小澤は穏やかな表情で語った。

「1年間、プロの世界から離れることになりましたが、最大限にやってきたつもりです。だからトライアウトを区切りにするというのは、家内とも相談してきたこと。声が掛かるかどうかは分かりませんが、どうなったとしても、ピッチで自分らしさを見せられたと思うし、後悔はありません。今年1年、細胞の一つ一つまで"自分はゴールキーパーなんだ"ということに気付かされたので」

 自宅近くの公園で、彼は週末になると一人でゲームを戦ったという。頭の中に試合をイメージし、90分間を戦った。バーチャルな世界では、敵はときに超人的ジャンプをしてヘディングをし、ネットを突き破りそうなシュートを打ってきた。空想で作った敵はどんどん成長していったが、その度に彼は怯(ひる)むまいとした。

「敵なんて本当はいないんですから、馬鹿ですよ」

 小澤は自嘲気味に目を伏せたが、すぐに昂然と胸を張った。

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