【日本代表】鈍足だった岡崎慎司、躍進の原動力は「走りの進化」にあり (2ページ目)
現在もパーソナルトレーナーとして岡崎を指導している杉本氏(photo by Kato Yasuhiro)「いい姿勢というのは直立した姿勢から、さらに少し上に伸びた状態を言います。ちょうど身体検査で身長を計るときのような姿勢です。そうすることで、みぞおち部分から恥骨にかけて背骨が上方向に伸び、関節の自由度が高まる。それを腹筋、背筋で前後に支えれば体をねじる動きがスムーズになり、力が発揮しやすくなります。同時に上から押さえられていた股関節が解放され、可動域も広がるのです」
変化が生まれたのは2007年のシーズン後半。ウォーミングアップでジョギングをする岡崎を見ていた杉本氏は、その動きが変わったことを実感した。同じ1歩の足の運びでも前へ進む力が大きくなっていたのだ。ピュン、ピュンと一歩ごとにリズミカルに前に進んでいく。それは例えジョギングであっても無駄なく地面に力を伝え、同時に素早い重心移動ができてきたことを意味していた。
「今まではディフェンスの裏を取っても追いつかれることが多かったが、そのままゴール前まで抜け出せるようになった」とは、当時の岡崎のコメントだ。トレーニングの量や負荷を上げるのではなく、体の使い方を覚えることで、今のプレイスタイルの礎(いしずえ)を築いたのである。そこから現在に至る活躍は周知の通りだ。
杉本氏はかつてバルセロナ五輪(1992年)の陸上100mに出場したことのあるスプリンター。日本人としては筋肉の発達した恵まれた体を持っていたが、それに頼るだけでなく早くから体のメカニズムに逆らわない走り方に目を向けていた。
転機となったのは現役当時に留学したドイツでの経験だ。そこで師事したコーチのもとにはサッカー、バレー、バスケットボールなどあらゆるスポーツ選手が教えを請いにやってきた。ここで"走る"という本質の部分はどの競技においても同じであり、陸上の100mであっても、球技であってもベースに大きな違いはないことに気づいたという。
「陸上のスプリントは同じ動きの繰り返しです。反対にサッカーなど球技の走りは常に変化し、2回として同じ動きにはなりません。そのために走りの基本をより精密にするか、応用が利くように幅を持たせるかといった違いはあります。しかし使うべき筋肉を使い、力を抜くところ、入れるところを正しく理解して動かすという走りの本質は同じなのです」
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