【Jリーグ】最少失点で5位。鳥栖が昇格1年目で躍進している秘密 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 小内慎司●撮影 photo by Kouchi Shinji

「高い位置からボールを取りに行くといっても、ひたすら(高い位置から)行くわけではなく、無理ならラインを整えて対応することもできるし、狙いを持った守備ができていると思う。中盤を突破されて危ない場面もあるけど、うちのセンターバックは1対1で弱さを見せていないし、だから(中盤を突破されても)大丈夫という信頼感はある」

 だが、言い方を換えれば、これだけ積極的な戦い方ができているのなら、もっと点が取れてもいいはず。それが、鳥栖の戦い方から受ける率直な印象だ。

 事実、積極的な姿勢は、攻撃においても変わることがない。

 昨年のJ2得点王、長身FW豊田陽平の頭をめがけてロングボールを放り込むという、大味な攻撃も少なくないが、決してそれだけに頼っているわけではない。中盤でパスをつなぎ、その間にサイドバックがオーバーラップしてくるような人数をかけた攻撃もできているし、積極的な守備から相手陣内でボールを奪い、速攻につなげることもできている。

 にもかかわらず、10試合の総得点はわずかに9。全18クラブ中、下から3番目という数字はいかにも寂しい。守備に関しては及第点をつけた尹監督も、「攻撃についてはもっと得点につながるように、戦術的にも、技術的にも、高めなければいけない」と語る。十分にチャンスは作れているだけに、いかにそれを生かして得点を増やしていくかが、今後もこの順位を保つためのカギとなりそうだ。

 とはいえ、そのことで鳥栖の健闘が色あせるわけではない。水沼が笑みを浮かべながら、もどかしそうに口を開く。

「(9得点5失点という)数字だけで、どうせベタ引きしてんだろ、って多くの人が思っているんだと思う。それじゃあ、失点するわけないよ、って。そういう人たちにこそ、ぜひ僕らの試合を実際に見てほしい。僕らは自信を持って戦っていますから」

 確かに、鳥栖の戦いぶりを目の当たりにすると、いい意味でのギャップに驚かされる。そこには、「弱者の論理」に基づいて守備に奔走するだけの選手はいない。水沼が力強い言葉をつなぐ。

「これから暑くなって、今までと同じようには走れなくなるかもしれないけど、うちは頑張れる選手が揃っているし、チーム力はJ1でもトップクラスだと思う。チームがひとつになって戦うことで、J1残留はもちろん、ひとつでも上の順位で終われるようにしたい」

 数字からだけではうかがい知れないアグレッシブさこそが、J1ルーキークラブ躍進の秘密である。

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