J Footballなでしこジャパン

[2012年02月05日(日)]

「グアルディオラのバルサのよう」。
INAC神戸がスペイン女子サッカー界に与えたインパクト

  • 山本美智子●取材・文 text by Yamamoto MIchiko
  • photo by Hayakusa Noriko

試合後、記念撮影をするバルセロナレディースとINAC神戸の選手たち
「パパ、見て、あのボールタッチ!」

 INAC神戸レオネッサがバルセロナレディースと対戦した翌日、スペインの地元紙にそんな見出しが躍った。

 日本とは比較にならないほど、女子サッカーがマイナーなスペインにおいて、それも公式試合でない、親善試合の結果が翌日の新聞に大きく報じられるのは、非常に稀(まれ)なことだ。

 この見出しが語っている事柄はふたつある。ひとつは、純粋な賞賛。スタジアムで行なわれた試合を生で観戦しながら、INAC神戸の選手たちの技術の高さに純粋に感嘆の声をあげた少女の声そのものだ。

 もうひとつは「思ったよりずっとうまかった」という驚きだ。サッカーの歴史があるスペインでさえ、女子サッカーはマイナーで有名選手も出てこないのに、男子サッカーはスペイン代表ほどではなく、たいしたレベルにない日本の女子チームが、「こんなに上手にプレイできるものなの?」という驚愕がこのひと言に集約されているのだ。

 FIFAバロンドールの女性部門を獲得した澤穂希がいるくらいなのだから、レベルが高くて当然ではないか、と考える者も少しはいたかもしれない。しかし、スペインでは、澤がメッシと同じ舞台でバロンドールをとった授賞式は、生中継こそされたものの、その注目度には雲泥の差があった。

 バロンドールを受賞した澤と女子の最優秀監督として選ばれた佐々木則夫監督のスピーチだけは、スペインのテレビでは訳されることすらなかった。日本人が選ばれることを想定していなかったのかどうかは定かでないが、スペインのテレビ局は、他の言語はともかく日本語の同時通訳者の用意もしておらず、日本からみれば歴史的快挙となったこの舞台でのスピーチは、スペイン人には全く伝わらないまま終わったのである。

「この国には女子サッカーを専門にやる記者はいない」と地元のスポーツ記者が断言するように、女子サッカーがいかにスペインでは軽視されているのかが、わかるだろう。

 その一方で、スペインで女子サッカーに従事している人々は、INAC神戸や澤のすごさを身にしみて感じていた。

 正直、まだプレシーズンがスタートしてまもないINAC神戸とシーズン真っ最中のバルセロナレディースの対戦なので、今回の試合を通して両者を比較することは不可能だろうが、そういった点を差しひいても、「やっぱりうまかった」と話したのは、バルセロナレディースに同点弾をもたらしたFWのオルガだ。

「世界一っていうか、バロンドールをとった選手と同じグラウンドに一緒に立てるなんて、このうえない光栄。またとない貴重なチャンスだった」と興奮冷めやらぬ様子で喜びを隠さなかった。

 バルセロナレディースを率いるチャビエル・ジョレンツ監督は「澤が触るボール触るボールのひとつずつ、ピッチで彼女が触れるものは全て10点満点」とべたぼめ。この日の試合で澤の調子は今ひとつ良くないように見受けられたが、ジョレンツ監督は「彼女のボールタッチはぶれない」とその安定感を高く評価した。

 他にも気に入った選手として、川澄奈穂美、大野忍、田中明日菜らの名前を次々にあげた。特に「川澄はすごく気に入った。スピードがあり、アグレッシブで、積極的に攻撃を仕掛ける」と絶賛。また「スピードがあって川澄といいコンビネーションプレイ」ができる大野のほか、キーパーの海堀あゆみや、バルセロナレディースの攻撃から何度となくチームを救ったセンターバックの田中など、守備の選手の名前もあげた。

 さらには、「ボールタッチがうまく、細かいパスを回していくINACは、まるでトップチームのバルサ、特にグアルディオラのバルサを見ているかのような瞬間もあった」とこれ以上ない最高級の賛辞まで飛び出した。また、「INAC神戸の強さは、澤だけじゃなく、ほかにもたくさんの優秀な選手がいること。大野や川澄の連携など、コンビネーションはINACの持ち味。個よりもチームプレイを大事にしているところもバルサ的だ」とバルサのようなプレイを目指すINAC神戸にとって嬉しい言葉を送った。

 ロンドン五輪についても、ジョレンツ監督は「優勝できるかどうかはわからないが、(日本代表が)優勝候補なのは間違いない。アメリカやブラジルなどと肩を並べて、金メダルを競り合うことになるだろう」と、なでしこジャパンに太鼓判を押した。

 今回、INAC神戸が対戦したバルセロナレディースは、今季のリーグ戦、一度引き分けたのみで残りは全勝、つまりは無敗を続けており、もちろんリーグ首位。昨年から年間予算を大幅に削られたバルサのリストラ部門であるにもかかわらず、現在、クラブ史上最高の成績を誇っている。

 そのバルセロナが、なでしこジャパンのメンバーを7名抱えるINAC神戸と試合し、ドローで試合を終えたのだ。おそらく、スペイン国内で見ることのできる女子サッカーの試合で、ここまでレベルが高い試合は、観客にとって生まれて初めてだったのではないだろうか。

 女子サッカーを専門にやる記者がいない女子サッカー不毛の地・スペインだが、この試合の観戦に、バルセロナのサンドロ・ロセイ会長がスタジアムへ足を運び、大きな話題を呼んだ。それほど、今回の親善試合は注目を浴びていたといえる。

 INAC神戸のバルセロナ遠征は、スペインにおける女子サッカーの普及に一石を投じたのかもしれない。

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