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昨シーズン、降格危機という憂き目を味わった浦和レッズ。かつてアジアの頂点に立ち、世界3位に上り詰めたビッグクラブの面影は完全に薄れつつある。この現状を打破するために、クラブは昨年末からチーム再建を託(たく)す監督人事に奔走。紆余(うよ)曲折を経て、昨季までサンフレッチェ広島を率いていたミハイロ・ペトロヴィッチ監督を指揮官に迎えた。はたして、レッズは低迷から脱却することができるのか。浦和というクラブの性格をよく把握している”ミスター・レッズ”福田正博氏が分析する。
浦和に合うかどうかは別として、ペトロヴィッチ監督を招聘できたことは、とても好感が持てる。というのも、世界では今、バルセロナを筆頭に、勝つのはもちろん内容も重視したサッカーが脚光を浴びている。ペトロヴィッチ監督も同様の哲学を持っていて、彼の目指す非常にポジティブなスタイルが、自分好みでもあるからだ。
サッカーの考え方としては、2009年から2年間チームを率いたフィンケ監督のイメージに近いのではないだろうか。浦和がずっとやってきた、相手の仕掛けを受けてから反応するリアクション的なサッカーとは明らかに違って、自分たちからアクションを起こしていくスタイル。ペトロヴィッチ監督も広島時代に実践してきた、その形を浦和でも継続すると明言しているだけに、浦和のサッカーに大きな変化が見られるのは間違いない。
システムのベースは、3-6-1。攻撃時にはそこから、ボランチのひとり(⑥)が最終ラインの中央に入って、4-3-3もしくは4-1-4-1という形に移行。GKを含めて最終ラインから丁寧にボールをつないで、相手ゴール前までビルドアップしていく。その際、両サイドアタッカー(⑤⑧)がワイドに開いてピッチを広く使用し、前線の3人(⑨⑩⑪)と連動しながらチャンスを演出する。さらに、基本布陣で最終ラインのサイドに位置する選手たち(②④)も機を見て攻め上がり、その厚みのある攻撃は見応え十分だ。
一方、ディフェンス時には、両サイドのアタッカー(⑤⑧)が最終ラインまで戻って5-4-1といった布陣で対処する。高い位置から無闇にボールを奪いに行くことなく、自陣ゴール前まで引いてきて、相手選手が入り込むスペースを埋める。常に数的有利な状況を作って、人と縦パスにはタイトに対応し、効果的にボールを奪うことができれば、そこから素早いカウンターを狙う。
このように攻守でシステムが変わり、頻繁にポジションチェンジが行なわれるため、選手には複数のポジションや役割をこなせる、いわゆるポリバレントな能力が求められる。なかでも、2ボランチ(⑥⑦)と最終ラインの3人(②③④)に要求される仕事は多岐におよぶ。ボランチは、最終ラインのアンカー的な役割とセンターバックの仕事もこなせなければいけないし、攻撃の起点として優れたボールコントロールが要求される。最終ラインの両サイドは、センターバックに止まらず、攻撃時にはサイドバックとして働けなければいけない。
このサッカーを浦和で実践するにあたり、当初、不安を感じていた。好みのサッカーとは言っても、短時間で実践できるサッカーではないうえ、浦和にはペトロヴィッチ監督が求める選手、特に核となるポジションの人材が不足していたからだ。しかし、幸いなことに槙野智章と阿部勇樹の獲得に成功。彼らが加入したことで、システムの核となる人材を確保でき、チーム作りの時間はだいぶ短縮されると思う。ふたりの加入はそれほど大きなことで、彼らのおかげでチームの輪郭を容易に想像できるようになり、戦えるメドが立った。
また、浦和にとって追い風になるのは、ユースから昇格してきた選手たちがつなぐサッカーを実践してきて、ペトロヴィッチ監督が志向するサッカーに馴染んでいること。加えて、ペトロヴィッチ監督の前向きにチャレンジしていくスタイルは、若い選手が多い今のチームに合致するはずで、大化けするような選手が生まれるかもしれないという期待も膨らむ。
さて、メンバー構成だが、GKは加藤順大が適任。経験が足りないだけで、足もとの技術がしっかりしており、能力的には広島の西川周作にも劣らない。最初は多少のミスもあるだろうが、何の違和感もなく、ペトロヴィッチ監督が志向するサッカーをこなせるはずだ。
ペトロヴィッチ・スタイルの最も重要な役割を担う、2ボランチとアンカーのポジションは、絶対的な存在となる阿部がどこか1枠を埋めるとして、残り2枠は熾烈な争い。ボランチもできるスピラノビッチをはじめ、高い守備力を誇る濱田水輝に、鈴木啓太や小島秀仁らが候補。なかでも注目は、機動力があって、ボール扱いに優れた小島。ペトロヴィッチ監督が求めているタイプだと思う。
最終ラインの両サイドは、左が槙野。右は正直、最適な選手は見当たらなかったのだが、現状では山田暢久が務める可能性が高いのではないか。サイドバックもこなせる選手、という意味では妥当な選択だろう。
サイドアタッカーの右は、高橋峻希と梅崎司。どちらか選ぶなら、高橋だろう。相当な運動量を要求されるポジションで、アップダウンを苦にしない彼の優れたフィジカルが存分に生かされるに違いない。
左は、右もできる梅崎に、宇賀神友弥や野田紘史もいるが、最終的にこのポジションに入ってほしいのは、原口元気だ。ピッチ幅を広く使うサッカーだけに、サイドアタックは攻撃時における最大のポイント。ここで、1対1で仕掛けられないと、突破口も見出せないし、アクセントも作れない。体力的には厳しいポジションだが、原口がここの仕事を消化できるかどうかが、チームの勝敗を左右すると言っても過言ではない。原口がうまくこなせれば、より攻撃的で、より見ている者を魅了するサッカーになっていくと思う。
トップ下のふたりは、柏木陽介、山田直輝、マルシオ・リシャルデス、エスクデロ・セルヒオとタレントがズラリ。誰が入ってもそれぞれがいい距離間を保持し、コンビネーションのとれたサッカーを実践できるだろう。が、唯一にして、最大の問題は、1トップだ。ピタリとはまるピースがない。浦和には、佐藤寿人や李忠成ら毎シーズンふた桁ゴールを奪えるようなフィニッシャーが皆無。エスクデロにしろ、新加入のポポにしろ、そこまでの実績はなく、田中達也もフルシーズン計算できる選手とは言えない。この穴をどう埋めていくかが、当面の課題になりそうだ。
それと、もうひとつ気がかりなことがある。応援するサポーターたちの思いと、ピッチで行なわれていることがシンクロできるかどうか、だ。
どういうことかというと、フィンケ監督のときに、浦和の伝統とも言える速いサッカーを好むスタンドのサポーターやファンと、ピッチで行なわれていたパスを回すサッカーの呼吸が合わないことがあった。そうすると、スタジアム全体がギクシャクした雰囲気になって、見ているほうも、やっているほうも、どことなく“すっきりしない感覚”が残ってしまうのだ。当然、それはチームにとってプラスにはならない。
そして、ペトロヴィッチ監督が志向するサッカーも、時間をかけてビルドアップしていくのが、基本のスタイル。サイドの高い位置までボールを運んでも、行き詰まれば最終ラインまで戻して、組み立て直すこともしばしばある。その時間を、スタンドのサポーターやファンが容認できるかどうか。もしそこで焦れてしまって、「もっと早く攻めろ」「前に預けろ」というムードがスタンドで漂い出すと、フィンケ監督のときの二の舞になりかねない。
そういう意味では、見ている側の意識も変わらなければ、大きな変化というものは起こせないだろう。どれだけのサポーターが、過去の浦和とは明らかに違うサッカーにチャレンジすることを理解し、同調できるか。それが、チーム再建へのカギになるのではないか。
翻(ひるがえ)って、選手や監督も、見ている側を納得させるだけのサッカーを実践しなければいけない。すぐに結果を出せなくても、未来に可能性を感じさせるようなサッカーを見せ続けることが大切。それをピッチ上でどう表現していくのか、じっくりと見守っていきたい。




















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