【なでしこリーグ】「INAC魂」を託して。創成期からクラブを支えた米津美和の引退と涙 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko
  • photo by Hayakusa Noriko

 そんな米津も32歳。今シーズンは当初から「引退」の2文字が頭をよぎっていた。それでも、「もう一度、がんばってみよう」と米津に思わせたのは、澤穂希らの神戸への加入だった。

 それまでは、なでしこジャパンの合宿でも遠い存在だった澤らの加入は米津を奮起させた。高いレベルとハイペースで進む日々のトレーニングにも貪欲に臨んだ。その甲斐あって、米津のプレイには深みが加わった。

 しかし、なでしこジャパンがワールドカップを制するという快挙を遂げた夏。チームメイトの活躍を喜ぶと同時に、米津は埋めようのない"差"を感じてしまったのだ。

「これが"世界で戦う力"なんだと感じました。もちろん少しでも近づけるように懸命でした。でも......限界が見えてしまったんです」。静かな口調で米津は語った。

「『今のプレイ、お前だったら抜けるだろ』と監督に言われたことがあるんです。自分の中でそれは全力プレイでした。でも周りには『あれは突破できる』と映っている。きっと以前の私なら抜けていたんでしょうね。潮時だと思いました」(米津)。

 引退を決めてから、米津はすべてのしがらみから解放されたように、のびのびとピッチをかけまわった。実に楽しそうに。この心境に達したことでまたひとつ壁を越えたように見えた。それは引退を決めたからこそ、できるプレイだった。

 米津にはひとつだけ気がかりがあった。それは"INAC魂"の継承だ。これまでのINAC神戸のチームカラーは米津のガッツあふれるプレイと似ていた。一本気で、泥臭くて、エネルギッシュ。それがINACの真骨頂だ。常に目標に向かって走り続けてきた。そういったものを誰かに引き継がなければいけない。そして、それは"生え抜き"の選手が望ましい。

 当てはまるのはひとりしかいなかった。現在のキャプテンの川澄奈穂美だ。「今の彼女にそこまで託すのは酷かな、とも思ったんです。でも、心の片隅に置いていてくれればそれでいい。いつか少し思い出してくれれば......」。

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