J Footballなでしこジャパン

[2011年09月10日(土)]

【なでしこジャパン】ポイントはスピード。北朝鮮代表監督が分析したなでしこの弱点

  • 吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho
  • 早草紀子●撮影 photo by Hayakusa Noriko

ロスタイムに同点ゴールを決められ、うなだれるなでしこジャパンの選手たち

 なでしこジャパンがロンドン五輪出場権を得てから、1日が経った。選手たちには安堵の表情が見られたが、世界王者・日本が、北朝鮮相手に冷や汗をかかされたことも忘れてはいけない。終了間際のショッキングな失点で1-1のドロー。開始10分過ぎから、終始相手にペースを握られた。

 北朝鮮は4-4-2をベースに、佐々木則夫監督が「要注意」としていた11番のラ・ウンシムらがゴールに迫った。なかでも試合序盤は左MF、途中からボランチに移った7番リ・エギョンの好プレイは目立っていた。ボールキープの際、微妙な上体の動きと、細かなボールタッチで日本守備陣のギャップをつく。

 1990年代からサッカーを女子スポーツの重点強化競技としている北朝鮮代表チームの強さを感じた。また先のドイツワールドカップでの違法薬物問題で5選手が出場停止となったことについて、シン・ウィグン監督は「別の選手も同じレベルだから問題はない」と豪語していたが、これもあながち外れてはいなかった。

 いわゆる天然なのか、はたまたかなりの策士なのか。本予選を前に北朝鮮女子代表監督に就任したシン・ウィグンのキャラクターはかなり際立っていた。

 試合後の記者会見では、冒頭に中国人の司会者から「では、2012年ロンドンオリンピックアジア地区最終予選を終えた監督にまず……」という挨拶から入るのだが、これを訳した北朝鮮チーム通訳にツッこんだ。

「え? 何? 今は2011年じゃないか? 何を話せばいいんだ?」

 日本戦以前のゲームでも、質問への回答はかなり短かったが、この日も「次の試合に賭ける。以上」などと一方的に話を打ち切ってしまった。

 しかし、こちらが「日本をどう分析したのか」「実際に戦った印象は?」と問うと、一気にまくし立てた。北朝鮮のサッカー用語のフィーリングを知っていただくべく、出来る限り直訳でコメントをご紹介したい。
 
「私は我々の選手を信じています。我々のチームは日本を相手にする時、自信満々で臨む気質がある。試合状況に応じて最高の選択をする。戦闘意識を高め、決死の覚悟で戦える。精神面でも我々が勝っていたと思う。引き分けという結果に関しては、残念に思っている。我々は勝って、勝利の報告を上げなければならなかった。しかし、それができずに遺憾に思っている」

 シン監督自身は、かつて自国女子サッカーのユース代表の指揮を執っていた頃、5度日本と対戦したことがあるという。そのすべてに勝っており、「日本と引き分けたのは今日が初めて。負けるとは考えずに試合に臨んだ」。 

 ただ、気持ちだけで臨んだというわけではない。なでしこの世界一のパスワークを絶つために、こんな指示を送った。
 
「日本のチームは短い連絡(パス)をもとに試合を組織的に進行します。そこに対する対応策は、われわれが圧迫(プレス)の密度を上げたということ。空間(スペース)と人に対する圧迫を上げていけば、日本のチームはそこから立ち上がることができません。その分析をもとに、圧迫を速度化しました」
※「圧迫」「空間」は韓国でもよく使うサッカー用語だが、「連絡=パス」は北朝鮮独自のもの。
 
 シン監督の言う「速度化」は、佐々木則夫監督が戦前に予想した「北朝鮮はスピードのあるチーム」という点と一致する。

 ここまで、今予選で各国の「なでしこ対策」を分析してきたが、韓国は「組織」、オーストラリアは「力=パワー」を打ち出してきた。しかし、なでしこは苦しみながらもこれを打ち破った。それでも、北朝鮮の「スピード」に対しては勝ちきれなかった。この点は、予選を通じて得られた貴重な課題となるだろう。

 なでしこの選手たちは、北朝鮮との試合後はまるで負けたかのような雰囲気だった。宮間あやは、こんな反省の弁を口にしている。
「相手のリズムに合わせないよう、ボールをしっかりとつなごうと思っていた。しかし、うまくいかなかった」

 宮間はオーストラリア戦後、「欧米相手にできていることが、アジア相手にできないことがある」と話していた。ロンドン五輪ではメダルのかかった局面で、世界クラスの実力を持つ北朝鮮と対戦する可能性もある(北朝鮮は11日のタイ戦に引き分け以上で予選突破)。

 ワールドカップではヨーロッパ勢やアメリカとの対戦が続いたが、違うタイプとの対戦もインプットしておいたほうがよさそうだ。北朝鮮戦の苦戦はしっかりと記憶に刻んでおきたい。

 試合翌日、もう少しシン監督の言葉を引き出したく、練習場に向かった。すると、試合前日に日本の報道陣をシャットアウトした緊張感はどこ吹く風。練習後にピッチ脇のベンチで煙草をふかした後、バスに向かう途中で、シン監督はこちらの問いかけに応じた。

――責任監督先生様(代表監督)におかれましては、昨日の日本チームは疲れていたように見えましたか。
「いや、別に。そうは見えなかった」 

――では、日本で警戒が必要と見ていた選手は?
「そういうのもない。私は若い世代の監督としてやってきた。今、考えているのは自分たちのチームのことなんだ。新しい選手がいて、既存の選手たちがいる。育ててきた選手たちをどうやって使っていくか。そこを考えている。相手のことよりも、自分たちがどうするのかを第一に考えている」
(※北朝鮮は06年女子U-20W杯で優勝。08年はU-20W杯準優勝とU-17W杯優勝)

――日本が世界選手権(ワールドカップ)で優勝して、何か変化を感じますか?
「優勝したからといって、何もこちらが圧迫感(プレッシャー)を感じることはない。今は、アジアの舞台で予選を戦っているんだろう? それ(優勝)が特別なことか? アジアの舞台では、我々のほうが勝ってきたじゃないか。昨日の試合だって、そう(自分たちが優勢)だっただろう?」
 
 シン監督のコメントからは、日本へのライバル意識がひしひしと伝わってきた。だが、同時にそれが心地よくもあった。男子の日韓戦あたりだと、最近はここまでのピリピリ感がなくなっている気もしていたからだ。さらに、世界トップレベルの競争相手がアジアにいる点も、男子とは異なる点だ。このチームは貴重な対戦相手なのだな……と思った北朝鮮戦だった。

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