[2011年07月19日(火)]
【なでしこジャパン】「連動性と走力」の勝利。あきらめない心で手にしたW杯優勝
- 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko このライターの記事一覧
- photo by Hayakusa Noriko
日本がワールドカップで優勝する。それがこんなに早く、現実になろうとは誰が想像しただろうか。
「実感がわかないんです」。
決勝の翌日、金メダルを掲げた選手たちは口ぐちに同じ言葉を発した。試合ごとの成長は感じられるが、それが金メダルに直結している実感が持てないのだろう。それほど、無心でピッチを走り、ボールを追い続けた3週間だった。
決勝の相手はアメリカ。以前は雲の上の存在であり、そこから倒さねばならない相手へと変化してきた世界ランク1位。そして7月17日、ついにその強敵に勝利する時がやってきたのである。
「決勝でアメリカと対戦できるなんて」。決戦前日に澤穂希はこう話していた。10代でアメリカの強さに触れて愕然とし、自らその中へ飛び込んでいった20代。アメリカプロリーグでの経験は、澤を大きく成長させた。
そのアメリカに恩返しするときがやってきた。もちろんイニシアティブが取れるとは思っていない。それでも、「勝機は十分にある」。そう信じて疑っていなかった。
しかし、試合の入りはあまりよくなかった。相手に合わせてしまい、攻守に連動するタイミングがズレてしまう。そのためセカンドボールを奪うことができず、ラインは間延びする。その悪影響がどんな形になって現れるか、イングランド戦で選手は学んでいたはずだった。
阪口夢穂がミドルシュートを狙い、近賀ゆかりが右サイドからビルドアップを試みるなど、ハイプレッシャーの中でも、攻撃のバリエーションで変化をつけようとする。
失点さえなければ、必ずチャンスはある。ドイツ戦、スウェーデン戦でそれを実現してきた。しかし、相手はあくまでも最強の女王・アメリカ。ゴールを奪うことが難しいのは選手も十分わかっている。
アメリカはボールを奪うとすぐさまスピードにのった攻撃を仕掛けてきた。特に左サイドのラピノエ、右サイドのオルレリーはスピードに加えて、キープ力もあり、そこにFWのワンバックがからめば、破壊力は抜群だ。
「パワーとスピード」のアメリカに、「連動性と走力」で対抗する日本。しかし、どうもしっくりこない。パスミスからピンチを招くことも多く、アメリカがゲーム序盤を支配。日本はハイプレッシャーにさらされながら耐え続け、前半が終わった。
前半に勝負をかけていたアメリカに対して、日本はそれをしのいでチャンスを狙っていた。後半、アメリカに先制を許しはしたが、徐々に日本のいい攻撃パターンが出るようになってきた。
すると81分、永里優希のクロスを丸山桂里奈が中央で受け、こぼれたクリアボールを宮間あやが押し込んだ。同点。試合は延長に突入する。
延長戦の直前、最初に引き上げてくる澤を、水を持って迎えたのはベテランGK36歳の山郷のぞみだった。山郷は澤にドリンクを差し出すと、澤の足をほぐしはじめた。ベンチの選手たちが、ピッチで走り続けた選手全員に同じ行動を取った。
延長前半、アメリカが再びリードを奪う。104分、警戒し続けていたワンバックの一撃だった。これで終わりか――。しかし、なでしこたちは誰ひとりとして、そんなことを思っていなかった。
「絶対に私たちの方が勝ちたい!って気持ちが強かった」と鮫島彩が言うように、彼女たちはあきらめていなかった。そしてチャンスは訪れた。117分、宮間のCK。ニアに走り込んだ澤が右アウトサイドで合わせる。ゴール。日本が再び同点に追いついた。
延長後半終了間際には、岩清水梓がモーガンの突破を退場覚悟のファウルで阻止。佐々木監督はピッチから出る岩清水から視線を外さず、ベンチに戻ってくると声をかけた。「それでいい」。直後、延長後半終了のホイッスルが鳴り響いた。
この時点で勝負は決していたのかもしれない。たしかに日本はPKが決して得意ではない。しかし、それ以上にアメリカには「なぜこんな展開になったのか」という焦りや混乱、割り切れない思いが120分を通して蓄積していたはずだ。失うものがない日本の方が精神的に有利だった。
さらにGK海堀あゆみのセービングが冴えわたった。1本目をストップして追い風を生みだすと、2本目にミスを誘い、3本目を再びセーブ。日本4人目のキッカーである熊谷紗希のプレッシャーを取り除いた。
ピッチでは澤が、近賀が、鮫島が、そしていつも動じる表情を見せない宮間までが、祈るように静かに目を閉じ、その瞬間を迎えようとしていた。
熊谷の蹴ったボールがゴールネットに吸い込まれた瞬間、ピッチは歓喜に包まれた。はかなくも強く、まっすぐで不器用な、けれど世界で一番美しい花がそこにはあった。





















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