久保建英の勝利への執念が乗り移ったシミュレーション 真価を発揮しCL首位突破 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【プレーでチームを引っ張った】

 前半の久保は孤立する場面が目立った。FWのウマル・サディクは一発を秘めたストライカーだが、技術は雑で視野は狭く、細かい連係ができない。また、ブライス・メンデスの右腕ケガによる欠場も響いた。50分にはマークを外してエリアに入ったが、4人に囲まれてしまった。味方がひとりでも近づいてくれたら、連係で崩せたはずだが......。

 しかし61分にブレーキだったサディクの代わりにベニャト・トゥリエンテスが入り、トップにミケル・オヤルサバルがずれてくると、久保を中心にした攻撃は活性化した。

「Resquebrajador」(亀裂を生じさせる者)

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は端的に久保のプレーを表現している。

「ボールを受け、相手と対峙し、敵を引きつける。当初からのひとつ目の目的を、タケ(久保)は果たしている。そして後半になると、外から中へボールを入れるようになって、インテルの守備陣を壊していった。(アルセン・)ザハリャンへの(切り込んだドリブルからの)パスはすばらしく、突破からのPKはVAR判定でシミュレーションによりイエローカードを受けた。確かに自ら転倒したが......」

 74分、相手のスローインのボールを味方が奪うと、久保はミケル・メリーノのパスを右サイドで受ける。食いついたニコロ・バレッラをすかさずダブルタッチでかわし、立ちはだかったカルロス・アウグストもあっさりとかわした。まるで居合抜きのように、相手を反応させた後、瞬時に斬り捨てる。迫力に満ちたドリブルでエリア内に入った後、足がかかったように見えて、一度はPKの判定になった。

 再生された動画を見ると、実際に足はかかっていなかった。シミュレーションによるイエローは当然の処分だろう。ただ、トップレベルの主審が瞬間的にPKを取ってしまうほどのスピード感で、ゴールへの執着が乗り移っていた。

「Tirar del Carro」

 久保は先頭に立って、自軍を引っ張っていた。そのシミュレーションは「卑怯」とか、「マリーシア」といった言葉で括られるものではない。相手が足を出してくる可能性、ドリブルでさらに切り込める可能性、ラストパスの可能性......。あらゆる方策を瞬間的に探ったなかでの決断だった。つまり、勝利の執念そのものだ。

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