「イニエスタ不在」というレベルではない。
漏れてきた神戸の危機的状況

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

「(ヴィッセル)神戸はどうしたんだ? 選手は適性のあるポジションでプレーしているのか? コレクティブな力をまったく感じず、それぞれがプレーに迷っている。まるで素人の思いつきのような布陣だ!」

 知り合いのスペイン人記者が、試合中にSNS通信アプリでメッセージを送ってきた。彼は前監督のフアン・マヌエル・リージョと親しい。チームの変わりように、呆気にとられたようだった。

 この日、神戸は公式戦8連敗目を喫した。「アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキの不在が響いた」というレベルではない。それぞれの選手は奮闘していたものの、糸の切れた凧のように無軌道で、チームとしてなす術(すべ)がなかった。神戸の選手たちは、失意の中でもがいている。

横浜F・マリノス戦で失点し、呆然とするダビド・ビジャらヴィッセル神戸の選手たち横浜F・マリノス戦で失点し、呆然とするダビド・ビジャらヴィッセル神戸の選手たち 5月18日、日産スタジアム。13位と低迷する神戸は、7位の横浜F・マリノスの本拠地に乗り込んでいる。

 立ち上がりは、互角以上の戦いを演じていた。ボールが落ち着かず、攻め切れない横浜FMを尻目に、高いラインを保ちながら、むしろ優勢ですらあった。右サイドを崩し、西大伍のクロスをダビド・ビジャがボレーで狙う。あるいは、敵陣内でのボールを巡る争いに勝利し、三田啓貴のパスから西がGKと1対1となってシュートを放った。

「前半は相手のプレスもあって、いいパスコースを見つけながら前に行こうとしたが、後ろで持ちすぎていた面もあったかもしれない」(横浜FM/アンジェ・ポステコグルー監督)。

 しかし、前半20分を過ぎると、神戸は徐々にサイドで起点を作られ始める。自然とバックラインが下がってしまい、攻守に乱れが生じる。選手たちは気合いだけで不具合を調整し、前へ押し出していたが、崩れるのは時間の問題だった。

 31分だ。左CBの宮大樹が左サイドに開いて、左足でサイドチェンジを試みる。それはプレッシャーを回避し、一気にポジション的優位を作るプレーのひとつだが、「攻撃と同時に守備のポジションを取る」という戦術的リスクヘッジはなかった。相手にカットされると、わずか2、3秒でゴール前まで持ち込まれ、フリーのマルコス・ジュニオールに先制点を叩き込まれている。

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