ザックJの棘(とげ)。大久保嘉人に「ジョーカー以上」の期待 (2ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun
  • 益田佑一●撮影 photo by Masuda Yuichi

 合宿での練習時間は限られており、ザッケローニ監督からは特別な注文はなかったようだ。短期間で多くのことを頭に詰め込む必要がなかった分、大久保はホッとしていた。

「まあ、チームに入ったら、やるべきことはやらないといけないけど、(代表から2年も離れていて)最後の最後でメンバーに選ばれているし、FWとして呼ばれているわけだから、(細かいことに縛られるより)点をとることと、より多くのチャンスを作れるようにやっていきたい。そのためには、自分のプレイを出せる環境にするというか、(チームの中で)自分がやりやすいようにやっていくしかないね。でも正直、(前回大会の)南アフリカW杯のときよりやりやすい。とにかく、オレは失うものがないんで、自由にやりますよ」

 大久保がメンバーに選出されたのは、昨季Jリーグ得点王(26得点)に輝き、今季もリーグ出場13試合で8得点を挙げるなど、川崎フロンターレでのプレイが評価されてのことだ。フロンターレも、代表も、ともにスタイルは攻撃的だが、実際に代表チームに加わってみて、何か違いを感じるものはあるのだろうか。

「フロンターレの場合は、代表のように相手の裏を執拗(しつよう)に狙うのではなく、とことんボールをつなぐ感じ。(フロンターレでは)FWレナトがサイドから仕掛けるけど、そこにもみんな絡んでいくからね。そういう違いはある。だからといって、代表でのプレイがやりにくいってことはないよ。また、代表には(いいパスを配球してくれる中村)憲剛がいないから『(活躍するのは)厳しい』って言われるかもしれないけど、ヤット(遠藤保仁)がいるわけだから。南アフリカ大会でも一緒にやっているし、(遠藤は)フロンターレの試合も見ていてくれたみたいなんで、今回の合宿でもオレにどんどんボールを当ててくれたし、オレが裏に抜けようとしたらそこにパスを出してくれた。すごくいい感じだったんで、南アフリカ大会のときよりも今大会のほうが、かなり攻め手が増えると思う。これからは、それを試合の中でどれだけできるか。そこを、しっかり確認していきたい」

 代表復帰初戦のキプロス戦では、後半13分から出場した大久保。驚いたのは、合宿中にこなしていたトップ下ではなく、1トップの位置に入ったことだった。

「マジかよって、思った。ここで、1トップでくるかって(笑)。合宿では1回も練習していなかったんでね。でも、『今までどおりのプレイをしてくれ』って監督に言われたんで、『ああ、それでいいんだ』って気持ちが楽になって、楽しくやれた。オレに(ボールを)出せって感じでやりつつ、(香川)真司とかに楽しくプレイさせようと思って、彼が中に入ってきたときは、オレが左サイドに出て行くとかして、そういうポジションチェンジはスムーズにできたと思う。シュートも積極的に打ちにいく姿勢は出せたし、"最初"にしてはよかったんじゃないですか」

 事実、大久保が入ってから、前の攻撃陣に動きが出始めた。周囲の選手のコンディションが上がって、もっとパスがつながるようなコンビネーションが確立できれば、間違いなく日本のチャンスは増えるだろう。

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