侍ジャパンの準決勝メキシコ戦で佐々木朗希→山本由伸のリレーはあるか 日本が決勝に進めば勝率は100%から考えられること (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

 栗山監督の「決勝まで行けば投げられるピッチャーを1イニングずつ」という言葉は、準決勝の相手がアメリカだという想定のもとで語られている。決勝がアメリカとなれば山本を温存したくもなるが、やはり負けたら終わりの準決勝、状態のいい山本を出し惜しみして負けたら悔いが残るはずだ。

 実際、2日前の練習の際、ブルペンで佐々木の球を受けていたのは中村悠平、山本の球を受けていたのは大城卓三だった。決勝が山本なら甲斐拓也が受けていたはずで、山本が準決勝でブルペンスタンバイする可能性は高そうだ。となれば、負けたら終わりの一戦を託すのは佐々木と山本のふたりになる可能性は高い。

 しかしながら、このふたりには悲壮感の欠片も感じられない。ふと思い浮かんだのは、ふたつのシーンだった。

 ひとつは、山本が先発した東京五輪の準決勝。立ち上がりにワンアウト二、三塁のピンチを背負った時、山本は微かな笑みすら浮かべていた。ピンチでも飄々としていた山本は、結局、94球を投げて6回途中まで韓国を1点に抑え、鬼門突破を叶えてみせた。

 そしてもうひとつ、昨春、佐々木が完全試合を達成したオリックス戦。7回、先頭打者にボールが先行し、スリーボールになったとき、彼は「ストライクを取ることには苦労しないから、気にならなかった」と言ってのけた。

 山本にしても佐々木にしても、彼らのメンタリティはプレッシャーへの向き合い方が一昔前の世代とは明らかに違うことを感じさせる。思えば準々決勝での大谷翔平はなりふり構わず、ひたすら勝つことを目指して激しく、楽しそうに躍動していた。山本もまた「野球がうまくなることにワクワクする」と言い、佐々木も「目指すものに対しては完璧を求めたい感覚は常にある」と言っていた。

 だからこそ鬼門となってきた準決勝というハードルを、この2人ならサラッと飛び越えるような気がしてならない。世界一になるために、もはや悲壮感は必要ない。それをこのチームではダルビッシュ有や大谷、ラーズ・ヌートバーが実践して見せてくれているのだから──。

プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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