【イップスの深層】サイドスロー転向の一二三慎太が見せた甲子園の奇跡 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

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 軽いトーンの鈴木に対して、一二三はその提案に乗ってみることにした。ちょうど招待試合で対戦していたのは、春のセンバツで優勝した興南。そのエース左腕である島袋洋奨(現・ソフトバンク)のトルネード投法をマネしてみた。しかし、腰をひねって投げてみるが、やはりしっくりこない。続いてアンダースローも試してみるが、これもまた手応えがない。次にサイドスローを試してみると、意外なことにリリースで指先にボールがかかる感覚があった。

「これ、しっくりくるわ!」

 そのとき、東海大相模の門馬敬治監督がブルペンにやってきた。驚いたことだろう。何しろ、プロ注目の本格派エースがサイドスローで投げているのだ。

「お前、何やってんだよ」

 最初は遊んでいるのかと思った門馬監督も、「こっちのほうがしっくりきます」という一二三の言葉に、「じゃあ、お前それでいってみろよ」と背中を押してくれた。

 一二三のサイドスロー転向のニュースは、瞬く間に高校野球界に広まった。春のセンバツで本来の投球を披露できなかったとはいえ、前年秋の時点での一二三の評価は「高校ナンバーワン右腕」だったのだ。そんなドラフト1位候補が、夏の大会を直前に控えてオーバースローからサイドスローに転向することなど、前代未聞の出来事だった。

 周囲の喧騒をよそに、一二三はサイドスローへの手応えを深めていった。なによりサイドスローで投げ込んでいると、指先にボールがかかる快感があり、そして肩の痛みがやわらいできたからだ。

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