スカウトが言う「甲子園のホームラン
量産は危険なシグナル」の真意

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 大会新記録となる通算68本塁打。広陵・中村奨成(なかむら・しょうせい)の1大会個人最多6本塁打など、"ホームラン・フィーバー"に沸いた2017年夏の甲子園。本塁打のおかげで大いに盛り上がったことは間違いない。

この夏の甲子園で6本塁打を放ち、大会新記録を更新した広陵・中村奨成この夏の甲子園で6本塁打を放ち、大会新記録を更新した広陵・中村奨成 だが、その一方で見落としてはいけないことがある。68本塁打の内容だ。泳がされ、片手一本で打ったような打球や、打った瞬間は「抜けたかな」と思われたような打球がスタンドインしているのだ。これが、「飛ぶボールではないか」という疑惑を呼ぶ要因になったのだが、それだけ生粋のスラッガー以外の本塁打が多かったということでもある。

「昔は清原和博(PL学園-西武ほか)、松井秀喜(星稜-巨人、ヤンキースほか)、古木克明(豊田大谷-横浜ほか)のようにガツーンと当てないと飛んでいかなかった。それが、今は違う」(パ・リーグ球団スカウト)

 スカウトは結果ではなく、内容や技術を見る。それが仕事だ。その証拠に、今大会で複数の本塁打を放った選手のほとんど、プロのスカウトからドラフト候補として名前が挙がっていない。1試合2本塁打を放った選手は7人いるが、広陵・中村を除けば、盛岡大付の植田拓がリストに残る程度だ。7人中2人は2年生だが、スカウト陣から「来年のドラフト候補」という声は聞かれない。

「選手を評価するうえで、本来は肩と足、それと飛距離は外せないもの。でも、今はそうじゃない。アマダー(楽天)のようにでっかいヤツが飛ばしているだけで、小さいけど技術で飛ばす、体幹や体の回転で飛ばすような選手はない。昔は荒井幸雄(元ヤクルトほか)、真中満(元ヤクルト)みたいに小さくても技術で飛ばせる選手がいたんだけどね。今のバッターは、技術は上がってない。アウター(の筋肉)を鍛えているだけだよ」(パ・リーグ球団スカウト)

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