常に大観衆を集めてしまう「清宮幸太郎の魅力」とは何か?

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 8月8日、午前5時。日が昇りはじめ、まだ多くの家庭が眠りに包まれる土曜日の早朝。阪神電車の車内は眠気とは無縁の異様なムードが充満していた。

 まるで「人間押し寿司」でもつくっているかのような満員電車。駅で停車するたびに押し合いへし合いで、車内からはうめき声や悲鳴と、少しの怒声、そしてホーム側からは乗車できなかった人の嘆きが漏れた。

甲子園デビューとなった今治西戦でタイムリー安打を放った早稲田実・清宮幸太郎甲子園デビューとなった今治西戦でタイムリー安打を放った早稲田実・清宮幸太郎

 そんな乗客のフラストレーションとは裏腹に、阪神電車は無数の「期待」を運んでいた。

 電車に乗り込む直前、ある男性のこんな声を聞いた。

「もし清宮が5年後くらいに阪神の4番を打っていたら、今日という日は記念になるよなぁ」

 ややふくらみ過ぎにも感じられるほどの期待。もちろん、「清宮」目当てで甲子園球場に足を運ぶファンばかりではなかったのだろう。だが、それでも話題の中心にいたのは紛れもなく、早稲田実のスーパー1年生・清宮幸太郎だった。

 阪神甲子園駅の西口改札を出ると、すでに目の前に行列があった。始発電車が走る前から甲子園球場の入場券売り場の前にファンが並び、200メートル以上の列をつくっていたのだ。

「こんなの、初めて見たわ!」

 乗客たちは口々に驚きの声をあげ、そそくさとその最後尾についた。列はさらに伸びていった。

「うれしいです。闘志に火がつくというか、モチベーションになります。期待に添えるように、自分のプレイをしたいです」

 試合前、大勢の報道陣に囲まれた清宮は、高まる注目度について聞かれてこう答えた。夏の西東京大会、いや、高校入学直後の春の東京大会から、清宮は注目されることに対して常にポジティブなコメントを繰り返していた。

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