両親に「初休業」を決断させた、鈴木尚広19年目の「初球宴」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 6月のある日、試合前のミーティングルームに巨人の一軍全選手が集められ、球団マネージャーからオールスターの選手間投票で阿部慎之助が選出されたことが告げられた。そして、「監督推薦では誰が選ばれるかわかりません」というマネージャーの言葉を受けて、傍(かたわ)らにいた原辰徳監督が口を開いた。

「今回はタカヒロを連れて行こうと思う」

 名前を呼ばれた張本人は、そこで初めて自分がオールスターに出場することを知ったという。

昨年、プロ通算200盗塁を達成した巨人・鈴木尚広昨年、プロ通算200盗塁を達成した巨人・鈴木尚広

「自分の中では『もしかして......』もないですよ! もう19年目ですし、自分はレギュラーとして毎日試合に出ている人間ではなく、役割が違います。僕にとってオールスターとは『レギュラーの人が出るもの』という感覚で、一番縁がないと思っていました」

 鈴木尚広、37歳。近年は主に「代走の切り札」として出場する機会がほとんどになっている。プロ19年目でのオールスター初出場は、1986年の川藤幸三(阪神)に並ぶ、最も遅い初出場になった。そんな鈴木は、原監督から「我が軍で推薦できる選手としてナンバーワン」と言わしめるほどの高い評価を受けている。

 5月9日のDeNA戦(ハードオフ新潟)、鈴木は神懸かった活躍を見せた。0対1と1点ビハインドで迎えた9回表、代走に起用された鈴木はバッテリーの警戒網をかいくぐって二盗に成功。亀井善行のタイムリーによって同点のホームを踏んだ。

 これだけでは終わらなかった。延長11回、代走からそのまま守備に入っていた鈴木は、再び一塁に出塁する。続く打者・小林誠司のカウントが1ストライクとなった時点で、DeNAベンチが動く。なんと捕手の嶺井博希に替えて、強肩の黒羽根利規を投入したのだ。DeNA首脳陣がいかに鈴木の足を警戒しているかがうかがえるシーンだった。

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