田中将大から則本昂大へ受け継がれた「1勝への執念」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「もしかして今年はひとつも勝てないんじゃないかと、不安になるものなんだよ」

 1975年から、12年連続で開幕投手を務めた元阪急ブレーブス(現・オリックスバファローズ)の山田久志氏が、そう話していたことがある。

4戦目にして今季初勝利を挙げた楽天のエース・則本昂大4戦目にして今季初勝利を挙げた楽天のエース・則本昂大

『そのうち勝てるさ』ではなく、『もう勝てないんじゃないか』――開幕投手の12年連続は日本記録であり、通算で284もの勝ち星を手にした山田氏でさえ、開幕からしばらく勝てないとそんな不安に苛(さいな)まれるものなのかと、驚かされた。

 ルーキーイヤーから3年連続で開幕投手を任された楽天・則本昂大も、そういう心境だったのかもしれない。1年目は2試合目、2年目は開幕戦で白星を手にした則本が、今シーズンは開幕から3試合、勝てなかった。それも、その3試合はいずれも6回以上を投げて3失点以内に抑え、防御率も1.95と、決して内容も悪くない。それでも則本はこう言った。

「周りで先発ローテーションを守っているピッチャーのピッチングを見ていたら、勝てなくて当然の内容でした」

 4月7日、チームメイトの塩見貴洋はホークスを相手に9回をゼロに抑えても、今季初勝利を手にできなかった。その翌日、美馬学もやはりホークス打線を零封しながら、勝ち星を手にできない。そんなピッチングを目の当たりにすれば、"エース"としての「勝てない焦りはないわけではない」と言った則本に、山田氏と同じような不安が過(よぎ)っていたとしても不思議ではない。

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