女房役・小田幸平が語る「山本昌、最年長勝利記録の真実」
そんな山本昌に、小田は平気でちょっかいを出す。
「そろそろ行っちゃいましょうか、レジェンド」
「レジェンドじゃねえよ」
「レジェンドでしょう、だって49歳ですよ。四十肩じゃなくて、五十肩じゃないですか」
そんな小田の無遠慮なツッコミにも、山本昌は笑う。
「いろいろおちょくっても、昌さんはそれを全部、受け止めてくれるんです」
一球投げるだけで記録になる、まさに"伝説のマウンド"――そんな大舞台で、山本昌は5回を投げ切った。しかも、タイガースに1点も許さなかったのだ。
ポイントとなったのは初回と3回、いずれも得点圏にランナーを置いて迎えた、4番のマウロ・ゴメスに対するピッチングだった。まずは初回、ツーアウト3塁。小田は初球、ストレートのサインを出して、インコースに構えた。
「おそらくゴメスは、スコアラーから『昌さんはシュート(シンカーと言われることが多い球だが、このバッテリーは『シュート』と言う)がいい、カーブがある、まっすぐは速くない』という報告を受けていたと思うんです。そういうとき、バッターはいいと言われてるボールを見ようとする。外のシュートをイメージしているとしたら、インコースの真っすぐには手を出さないんじゃないかと考えました」
小田の思惑通り、初球のストレートをゴメスが見逃し、ストライク。そのタイミングの取り方を見て、小田はゴメスがシュートを意識していることを確信した。
「だったらエサを撒(ま)いてみようと思って、シュートのサインを出しました。ボールになってもいいという、シュート。そうしたらゴメスが食いついてきた。タイミングよく振ってきて、それがファウルになったんです。これはシュートを狙っているから、遅かれ早かれ、シュートには合ってくる。だったらドーンといった方がいいなと思って、3球目は真っすぐ、それも"勝負球のボール球"のサインを出したんです」
勝負球のボール球――。
ストライクではなく、ボールになるつもりで投げる。しかし、あくまでも勝負球。小田はインコース、それも山本昌から見えなくなるのではないかと思うほどの位置、ゴメスのほぼ真後ろに、身を隠すようにして構えた。
「それは、インコースへキツく来てくれよというメッセージです。勝負するんですよ、でもインコースのボール球を放らなアカンのですよ、という......」
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