戦力外から球宴へ。
楽天・福山博之の奇想天外すぎる野球人生

  • 高森勇旗(元横浜ベイスターズ)●文 text by Takamori Yuki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 ウソのような話だが、サブの投手人生はこのウソから始まった。途中入部してきたよくわからない選手が、ボールの握りが丸見えの内野手用のグラブで投手をやっている。そんなサブを最初、周囲の選手は笑っていた。だが、そんな中で行なわれた紅白戦で、サブはレギュラー陣相手に快投を見せる。

「スライダーがキレて、面白いように抑えることができた。あの日以来、周りからの反応も少し変わったと思う」

 とはいえ、この時サブのストレートは最速128キロ。高校生でも速いとは言えない。現在のような150キロを超えるような快速球が生まれるには、これまたウソのようなストーリーがあった。

「投手を始めてすぐ、近くの公園で犬の散歩をしていたおじさんが話しかけてきたんよ。『オレが投げ方を教えてやる』って。最初は『誰?』って思ったけど、話を聞いてたらその人はベイスターズの金城(龍彦)さんの叔父さんやった。それからずっと、犬の散歩してる金城さんの叔父さんに投げ方とかトレーニングとか教わって、それをやってたら球が速くなったんよ」

 人の縁とは不思議である。後にその金城さんとチームメイトになるとは、この時は知る由もない。教わったトレーニングを続け、フォームの矯正をしたサブは、3年秋にはなんと最速148キロを記録。入学時から球速が20キロも上がり、押しも押されもせぬエースとなり、2010年、横浜ベイスターズからドラフト6位で指名を受け、プロ野球選手となる。

「まさかだよね。4年の春くらいから、周りのみんなは就活をしだした。就活したくないなぁと思ってたときに、プロに行けるかもしれん、みたいな話が来たんよ。それで目指してたんやけど、いや、まさか本当になれるとは。嬉しいとかより、ビックリ。驚きばっかりやった」

 確認しておきたいが、これは実在するプロ野球選手の「実話」であるということだ。

 横浜入りを果たしたサブは、1年目から19試合に登板するなど頭角を現す。170センチの体を目一杯使い、最速152キロのストレートを両コーナーに小気味良く投げ込む投球スタイルは、見ている者をワクワクさせる躍動感があった。

 だが2年目、サブの登板機会は劇的に減った。特にどこかを故障した訳ではない。調子が悪い訳でもない。しかし、チャンスは回ってこない。プロの世界、いや、どの世界でもこういうことは往々にしてある。やっと巡ってきたチャンスもわずか2イニングの登板にとどまり、最後はエルドレッド(広島)へ投じた球が危険球退場となり、二軍落ちとなる。二軍でも満足に登板機会を得られないまま、9月25日、チームのGM(ゼネラル・マネージャー)である高田氏に呼ばれ、衝撃の事実を告げられる。

「来年、投手としては戦力として考えていない。内野手に転向するなら、育成選手として契約を考えている」

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