12球団最強。ヤクルト打線を変貌させた「秘密練習」

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 5月某日――神宮球場の室内練習場から複数の打球音が聞こえてくる。何人かのヤクルトの選手が練習をしているようだった。時間は午後0時40分。試合開始の6時まで時間はたっぷりあるというのに、すでに選手たちは大粒の汗を流しながら黙々とバットを振り込んでいた。

 そして、真中、杉村両コーチの姿を注意深く追いながら練習を見ていると......選手との会話はあるものの、これといって熱心に指導しているわけではない。どちらかといえば、のんびりとした練習風景だ。そんな中、「おやっ」と気になったのが、雄平のティーバッティングだった。選手の斜め前からトスされたボールを打つ一般的なティーバッティングとはまったく違い、いろいろなやり方で打っていたのだ。簡単に説明すると、下記のような内容になる。

・バットを神主のように左右に4回振ってから、トスされたボールを強打
・スタンスをガニ股にして、腰をどっしりと落とし、ステップをせずに強打
・1、2、3と前進しながら強打
・両足を閉じた状態で強打
・ボールを入れるカゴを立て、腰を掛けた状態で強打

 トスの仕方も多種多様で、左右高低、そして緩急。トスする位置も、斜め前だったり、真横だったり、近かったり、遠かったり......。

 練習が終わり、クラブハウスへ戻る杉村コーチに雄平のティーバッティングについて話を聞くと、次のような答えが返ってきた。

「選手たちは前日の試合でフォームを崩されているんです。それをティーバッティングによって正しいフォームに戻すというのが目的です。大きい波を作らず、小さな波で終わらす。そうしたら3割近くは打てるだろうと。僕の持論ですが、バッティングとはタイミング、ポイント、バットの軌道の3つで成り立っていると思うんです。ティーバッティングはこれらすべてを鍛えることができる。雄平が行なっていた特別なティーバッティングは今年から取り入れたもので、チーム練習前の早出練習の時にさせています」

 早出練習自体は20年以上も続くヤクルトの伝統だというのだが、その内容は今年から大きく変わったのだ。特別なティーバッティング以外の練習も選手によってまちまちで、川端はショートと呼ばれる短い距離から緩い球を投げてもらいそれを打つ練習を好み、バレンティンはティースタンドにボールを置いて打つメジャー流。そして雄平はショートとティーバッティングの両方をやりたいタイプだという。

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