斎藤佑樹の覚悟「何が待っていたとしても、それも僕の人生」 (3ページ目)
2013年10月17日。
まばゆい陽射しが照りつける、台風一過の宮崎。斎藤はこの日、みやざきフェニックス・リーグの韓国・ハンファ戦に先発していた。
ヨシッ。
一球ごとに、斎藤の声が聞こえる。ボールをリリースした瞬間、腹からの声が響く。
「そんなに出てます? 僕、声はそんなに意識してないんですけど……おそらく、いい感じでボールが指にかかったときに、『ヨシッ』って声が出てるんだと思います(苦笑)」
体のどこかに特別な力を入れることなく、それでいてボールに最大の力を伝えることができるフォームの模索が、この秋の斎藤の狙いだった。
「けっこういい感じできてると思うんですけど……2月から始まって、6月に投げ始めて、ずっと腕が振れない、振れないと思っていたんです。でもここにきて、この1、2カ月前からかな。ようやく腕が振れてきてるなという感覚があるんですよね。ビデオを見ても、だいぶ腕は振り切れていると思うんです。ただ、黒木(知宏、投手コーチ)さん、中嶋(聡、バッテリーコーチ)さん、中垣(征一郎、トレーニングコーチ)さん、周りのみんなは、まだ腕が振れてない、振り切れてないという感覚があるらしくて、そこはまだ一致してません。それが、去年の日本シリーズの頃の僕と比べて振れてないという話なのか、それとも一般的に理想のフォームを求めるならもっと振れるはずだという話なのか、そこがまだ自分の中でつかめないんですよね」
肩、ヒジを痛めたピッチャーは、どこかで怖さを吹っ切って腕を振る勇気が求められる。しかしどれだけ勇気を振り絞っても、意識下で体がブレーキをかけてしまうと、腕は振れない。しかも本人は腕を振っているつもりでも、ビデオで見るとやはり振れていないというケースは珍しくない。
そんなギャップが焦りを呼び、腕を振ろうと意識してしまえば元の木阿弥だ。なぜなら、腕を振ろうとして振ってしまうから、肩、ヒジに負担が掛かるのであって、腕を振ろうという意識を持たず、全身の力をバランスよく使って、腕が振れなければならない。これがじつにもどかしい作業なのだ。斎藤は言う。
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