楽天初優勝。チームをひとつにした「8月のある出来事」 (2ページ目)

  • 山村宏樹●文 text by Yamamura Hiroki
  • photo by Nikkan sports

 調子からいえば、田中よりも西野の方がはるかに良かった。それでも田中は丁寧に低めを突くピッチングで点を与えなかった。まさにエースのピッチングでした。この勝利で連敗を5で止め、田中は開幕からの連勝を「18」に伸ばしました。何より、チームに再び勢いをもたらす1勝だったと思います。

 続く2戦目の先発は、故障から復帰して4試合目の辛島航でしたが、初回、二死満塁からG.G.佐藤に一発を浴び、いきなりの4失点。しかし打線が、直後に1点を返すと、3回に2点、4回に1点を挙げ同点に追います。そして、5回にも2点を挙げ見事逆転に成功しました。

 初回に4点を奪われた辛島ですが、その後は何とか試合を作りました。ただ、この試合はリリーフ陣の頑張りが見事でした。なかでも頑張ったのが、4番手で登板した長谷部康平。2日前の8月22日に母親を亡くし、当初は「ロッテはいい左打者が多いから、穴をあけたくない」とチームに残ることを希望していました。最後は星野監督の「行ってこい」のひと言で、23日の通夜に参列することになり、24日の朝、実家のある岐阜から仙台に戻ってきました。

 当日の試合前、球場で本人に会った時に「いろいろと大変だったね」と声をかけると、「やるしかないです」と気丈に振る舞っていた長谷部。しかし、8回に登板し打者2人を抑えベンチに戻ってくると、緊張が解けたのか、涙が止まりませんでした。ベテランの斎藤隆さんが長谷部のもとにかけより、肩を抱く姿が印象的でした。魂のこもった長谷部のピッチングが、チーム全体に一体感をもたらしたと、私は思います。

 その斎藤隆さんからウイニングボールを手渡された長谷部は、「母親に頑張っているところを見せたいと思って投げました。いいボールがいったと思います」としっかり前を見つめていました。

 そして2連勝で完全に勢いに乗った楽天は、3戦目も2年目の榎本葵がロッテの守護神・益田直也を打ってサヨナラ勝ち。3連勝でロッテとのゲーム差を5.5に広げました。

 キャプテンの松井稼頭央も「この3連勝で優勝を意識した」と言っていたように、チームにとっても、選手にとっても大きな3連戦だったと思います。

 3連戦のうち2つが逆転勝利。それも日替わりヒーローが生まれるなど、チームの底力を感じた首位攻防でした。ロッテ戦を前にいろんな選手に話を聞いたのですが、どの選手リラックスした表情を見せていましたが、その中に「やってやるぞ!」という強い意志を感じました。この表情を見た時、「優勝する」と確信しました。

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