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野球を辞めることも考えた斎藤佑樹が、
今、戦っている「幻想」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

斎藤は、タイガースのバッターを相手に、力を抜いてバランス重視で真っすぐを投げた。斎藤は見ていないと言ったが、その中に2球、128キロという球速のストレートがあった。その2球は、いずれもバッターをライトフライに打ち取ったボールだった。この事実にこそ、今の斎藤が向かうべき道筋が映し出されている。今の自分がやりたいこと――それを斎藤はライフルに喩(たと)えた。

「始動してからリリースの瞬間までの、右手に持ったボールの軌道がありますよね。その軌道でラインを作るイメージなんです。ボールを鉄砲みたいに一点でパチンと離すんじゃなくて、ライフルみたいに長い銃身を通すラインを作って、そこを通す。そうすると、一貫性が出てくるんですよ。一点で離すと、バーンと強いボールはいく。でも、どこにいくかわからない。もしいい球がいったとしても、それはその1球だけかもしれないし、その1試合だけかもしれない。ボールをラインに乗せられれば、繰り返し、同じ弾道のボールを投げられるはずなんです」

 そういうフォームを身につけるために、今、肩に力を入れて、一点でボールを離して、スピードを求めるようなピッチングをしてはいけない。そんなことは重々、理解している。しかし、ピッチャーとしての本能は、簡単にそれをよしとしない。いかに力を抜いているとはいえ、実戦で、ストレートが120キロ台だなんて、あり得ない。そんなピッチャーのプライドが、やりたいことの邪魔をする。

 まして彼は、斎藤佑樹だ。

 去年の誕生日、勝利投手になって、札幌ドームのお立ち台で「最強の24歳になる」と豪語した、あの斎藤佑樹である。18歳の時、甲子園という舞台で輝きを放った瞬間から、日本中の老若男女、そのすべてに名前と顔を知られてしまった。彼が背負ってきた宿命という名の荷物がどれほど重たかったかは、背負ったものにしかわからない。斎藤がこんなふうに話していたことがある。

「僕、今年のキャンプの時にすごく思ったんです。もう野球を辞めようかって……もちろん、誰にもしゃべりませんでしたけどね。ひとりでネットスローをしながら、そんなふうに考えてました。悔しいですよね。野球をまだやりたい。でも、このままで野球ができるのか。それさえわからなかった。テレビカメラは大谷翔平のところに来ている。そのついでに、斎藤佑樹を撮っている。それでいいのかと思った時期もありました。でも、こうすれば投げられる、このフォームを身につければ、野球ができると思えたら、そんなことはどうでもいいやと思えるようになったんです。今、やらなくちゃいけないことが見えてきた。だったら、周りはどうでもいい。僕が歩く道を邪魔しないでくれ。ここを歩きたいんだから、ちょっとどいてくれって感じです。僕はあそこにいくために、ここしか通るところがないんだと……斎藤佑樹のイメージを守って、回り道することはないんだと思ったんです」

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