好調ソフトバンクを牽引する6年目の「天才打者」中村晃の正体

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 まだ23歳の中村だが、バッティングスタイルはいわゆる仕事人タイプ。出塁率の高さが示すように、選球眼の良さが光り、加えて三振は今季まだ6つしかない。ミート力に長(た)け、ファウルで相手投手に球数を投げさせる技術にも秀(ひい)でている。

「ボールを当てにいこうとは思っていません。むしろ、当てにいくと当たらない。目でボールを追いかけてしまうと自然に体が突っ込んだりして、バッティングの形が崩れてしまうんです。とにかく自分の形で打つことを心掛けています」

 自信に満ちた表情で中村は語る。それも、これまで歩んできた中村の輝かしい実績を考えれば、十分に納得できる。ソフトバンク以外の野球ファンには、「帝京の中村」と言ったほうがピンとくるかもしれない。

 高校野球の名門・帝京高校(東京)で1年夏からベンチ入りすると、2年夏からチームの4番を任され、そこから3季連続して甲子園出場を果たした。3年夏には断トツの優勝候補に挙げられていたが、佐賀北高校に敗れベスト8で涙を呑んだ。だが、高校通算60本塁打の実力を買われ、2位指名でソフトバンクに入団。決して低い評価ではなかったが、これほどの成績を残しながらどの球団も1位指名しなかったのは、175センチの身長と高校時代のポジションが一塁手だったことが影響したと言われている。実際、プロに入ってからはパワー不足を痛感し、昨年までの一軍出場は5年間で72試合しかなかった。

 それでも中村の才能はチーム内でずっと評判だった。いち早くその才能に気づいたのが、中村の入団1年目に打撃指導を行なっていた当時、育成担当の宮地克彦(現・西武二軍外野守備走塁コーチ)だった。炎天下の雁の巣球場で、宮地が中村に言った言葉がある。

「平成生まれで最初に2000本安打を打つのはオマエだ! 天才的な打撃センスがある」

 一軍に定着するまで時間はかかった。だが、長く助走を取った分、ものすごい速さで成長している。

 中村が1番に定着してからソフトバンクは13勝3敗1分と、ハイペースで白星を積み重ねている。パ・リーグの順位でも楽天を抜き2位に浮上し、首位ロッテに1.5ゲーム差まで迫った。交流戦の優勝は確かに目標のひとつではあるが、本当に目指すべきものはまだ先にある。ようやく2013年型の戦う形が完成されたソフトバンク。このまま中村が天才と称されたバッティングを続けていけば......本格的な夏を前に、ソフトバンクが突っ走る可能性は十分にある。

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