楽天・則本昂大を覚醒させたライバルの存在

「自分ひとりしかいなかったら、きっと気を抜いてやっていたと思う。長谷川がおってくれたから、全国でも勝てる投手になれたと思うんです。ホンマはコイツに感謝なんですけど……」

「けど……。何よ?」と訊いたら、「オレよりええピッチングされたら、おもろない」。

 投手とはここまでのものなのか。それとも、則本だからこうなのか。
 
 そうかねぇ……と笑って返しながら、コイツはプロ野球に行くべき選手だと、大いに納得したものだった。

 そして、2012年の秋。

 大学最後の大会、「明治神宮大会」に駒を進めた三重中京大と則本。大学は則本や長谷川らの4年生を最後の卒業生として、2013年春に閉校。則本にとっては、すでに楽天からいただいていた「ドラフト2位」という栄誉に応えるべく、間違ってもみっともないピッチングはできない大舞台でもあった。

 神宮球場の通路で、向こうからやって来る彼を見つけた。次の試合が本番。球場の外でアップをしに向かうところだった。

 目が合った。こっちが先に右手を挙げて、首をひとつコクリとしてみた。ニコッとでもするかと思ったら、右手でシッ、シッとやられた。

 なんじゃい、偉くなりおって。そして、学生最後の神宮のマウンドに上った則本は、ポツッ、ポツッと点を取られながらも、京都学園大を3点に抑えて12三振を奪った。

「すいません、集中したかったんで。あそこで、『優勝しろよ』とか言われたくなかったんで……」

 帰りの通路でばったり会った彼は、マウンドの興奮が醒めていない険しい目つきで、そう言って頭を下げた。

 そんな則本が楽天のローテーション投手で頑張っている。

 5月25日。広島戦で勝利し、3週間ぶりの白星を挙げた。試合後、ファンに応える彼の顔がかわいく見えた。苦労しているんだな……。

 頑張れよって、その時、初めて思った。

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