強烈な負けじ魂が生んだ、ヤクルト・小川泰弘の投球スタイル

 以前、創価大の岸雅史(きし・まさし)監督がそう話していたのを思い出した。声をかけるのは止めておこうかと思った時、彼が振り向いた。怖い顔だった。私の存在に気付き、ニヤッとしたが、ただ顔が引きつったようにしか見えなかった。

「まだ、おめでとうなんて言わないからな」

 咄嗟(とっさ)に出た言葉は、考えていたこととまるっきり逆だった。

「わかっています。ありがとうございます」

 絞り出すような声。今度は一生懸命笑ってくれたように見えた。

 ちょうど1週間前、小川は東京ヤクルトスワローズからドラフト2位で指名を受けた。

 小川のボールを受けたのは、昨年の4月。春のリーグ戦の最中だった。

「安倍さん、ほら、あそこ。右中間のいちばん向こうの......ほら。ああ、やってるやってる。あれ、何かのおまじないみたいでしょ」

 外野の遠くを見やって、岸監督が笑っている。視線の先には、下半身パンパンのユニフォーム姿の選手が、左足を高く上げ、そのヒザをおでこにつけるようなストレッチを何度も繰り返していた。その姿は古代ローマ戦士の彫像のようにも見えた。

「よくあんな姿勢で長く立っていられますね」と言うと、「そうでしょ。あり得ないですよね。あの姿勢の時に押しても、アイツ、倒れませんからね」と、岸監督は再び笑った。

 小川泰弘のトルネード投法。170センチ足らずの身長をカバーすべく、独学で身につけたピッチングフォームだ。背番号を打者に見せながら、左ひざを高々と上げると、そのまま大きく踏み込んで、真っ向上段から一気に投げ下ろす。上背はなくても、小川のボールには角度があった。

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