【プロ野球】栗山監督が明かす「大谷翔平に送ったアドバイス」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 現場を預かる栗山監督は、この糸井の放出をどう受け取っていたのだろうか。

「いやぁ、この話を聞いたとき、まず僕は『すごい』と思いましたよ。今回のトレードは将来のことも含めていろんな意味合いがあったと思いますが、そうは言っても、本当にできるのかと思ってましたからね。いろんな人に、いろんなことを言われるのを承知の上で、それでも最終的に決断を下したこのチームの信念、この覚悟、この思い......それはもう、背筋がゾッとする思いでした。僕、嘉男に泣かれましたからね。彼、僕の前で号泣したんです。僕も嘉男にはホント、申し訳ないと思っているし、守ってやれなかったという思いもありました。ただ、このトレードは嘉男のためにもなるんだということもわかっていましたし、それも含めて、今回のトレードの凄さ、ファイターズというチームの凄さを改めて痛感させられました」

 糸井を放出してまで獲得した大引については、将来の幹部候補生であり、田中の抜けた後のリーダーとしての役割を期待されていると言われている。もちろん、チームを引っ張るためには試合に出続けることが大前提となるのだが、だからといって栗山監督は手綱を緩めることをしない。大引をすぐにレギュラーとして扱うわけではないと言うのである。

「もちろん、大引の持っているリーダーシップとか、人柄とか、そういうもの出せる状況は作ってあげないといけないと思っています。ただ、僕は去年から言い続けていますけど、中島卓也をショートに据えるんだ、という思いは変わっていません。大引の加入は、タク(中島卓)が成長するための、ものすごく大きな要因になるはずだという期待もあるんです。普通に考えれば、リーダーとしても、打つのにも守るのにも安定感のある20代後半の大引は、チームにとって得難い宝物ですから、そこは大事にしますよ。ただ僕だけは、みんなが思っていることを思ってない(笑)。大引とタクが勝負したとき、どちらがレギュラーを獲ればチームが長く安定するのかを考えれば、どうしても若い選手になるんです。タクは22歳で、大学を出たばかりの年齢ですし、このチームをいかに安定させるかというのが僕の使命だと思っているので、大引とタクの勝負を、戦わずして決めるというようなことはしません」

 そして、大谷翔平である。

 ドラフト1位のルーキー、大谷は投手と野手の"二刀流"を目指して、1年目のキャンプをスタートさせた。ファイターズはその挑戦を本気でバックアップしようとしている。思えば1年前のインタビューで、栗山監督は「監督になるにあたって、自分の中で"野球界の常識に絶対とらわれない"というルールを作った」と話していた。実際にチームの中に入ると、『野球界ってこうだよね』という"野球界の常識"に流されてしまいがちなのだ。しかし栗山監督は、監督になって最初のミーティングで「野球界はこうだから、というのはありえない」とスタッフ、選手の前で明言したのだと言った。実際、監督1年目は野球界の常識との戦いだったと言っても過言ではない。だからこそ、大谷の二刀流についても、"野球界の常識"と戦わなければならない。「プロで二刀流は無理だ」「どっちつかずの中途半端になる」「ケガをする」......云々。

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