【プロ野球】球宴ファン投票1位。いま斎藤佑樹は何を求められているのか? (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 この日、初回の斎藤は2点を失った。

 結果、これが決勝点となった。ファイターズはホークスに1-2で敗れた。つまり2回以降、6回までの斎藤のピッチングは完璧だった。7回、ピンチを背負って94球で交代となったものの、中継ぎ陣が後続を抑え、1点差のまま、ゲームは終わった。

 確かに、初回はもったいなかった。

 しかし、この初回の斎藤こそが興味深い。

 マウンドの上で感情を表現することのない斎藤の苛立ちが伝わってきたからだ。

(なんだよ、このベチョベチョのマウンド)

(こんなに滑ったら、思い切り投げられねえよ)

 もともとせっかちで勝ち気な斎藤が苛立つと、やんちゃな一面が顔を出す。そのやんちゃなピッチングが、いい方に出る場合と、悪い方に出る場合がある。

  この日の斎藤は、それがいい方に出たと思う。初回の2点だけで抑えたのだから、敗戦の責任を彼に背負わせるのは酷だ。それよりも初回のペーニャに対してストライクゾーンで攻めにいったところから、2回以降、ストレート、カットボール、スライダーを中心に、ストライクゾーンの低めにボールを集めて、バッターをねじ伏せていたあたりは、やんちゃがいい方に出ていた。相手をかわそうというピッチングでもなければ、力でねじ伏せるストレートを投げられなかったわけでもない。相手が高校生じゃないのだから、甲子園のように三振を取ることはできなくても、23歳なりのバランスで腕を振り、バッターに向かっていく姿勢は感じられた。栗山監督はこうも言っていた。

「滑ったんなら、グラウンドキーパーの人を呼んで滑るって言わないとダメだよね。後から聞いたら言い訳に聞こえるし、同じ条件のもとで頑張る高校野球じゃないんだから。佑樹は優しいからグラウンドキーパーの人に気を遣ったんだろうけど、ここはプロ野球なんだから、そういうのはダメだよね」

 滑るマウンドで投げたというだけで、これだけの物語ができてしまう。いやはや、斎藤佑樹というのはまことに興味深い存在だ。プラスもマイナスも含めて、山も谷もすべてが物語を構成する一要素になっていく。だから斎藤に対する声は、極端な甘口と極端な辛口の両方が存在するのだろう。斎藤を語り尽くすよりも先に、皿に盛られた五島サバの方が綺麗に平らげられていた。

 6月25日。

 斎藤佑樹は2年目にして、ファン投票でオールスターゲームに選ばれた。

「またひとつ夢が叶った感じ。先発で投げられたら嬉しいし、自覚やプライドを持って出たい」

 世の中が彼に何を求めているのか――その答えは、こういう舞台でこそ、きっと出る。

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