【プロ野球】6試合すべてクオリティスタート。2012年の斎藤佑樹はここが違う! (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 そして4球目、一転、アウトコースにスライダーをワンバウンドさせて、空振りの三振。このワンバンが、今年の斎藤の切り札だ。高さはアバウトながら、腕がしっかり振れているからこそ、内と外に投げ分けられる。3球目のインコース、4球目のアウトコースは、いかに好調のバルディリスでも捉えるのは難しかったろう。

 ランナーを出しても、後続を断つ。そうしたピッチングは“粘り強い”と言われる。ところが、粘り強いピッチングをするというのは、褒め言葉に聞こえてそうでもなかったりする。そこには、打たれている割には点が入らないという、いかにも偶然の結果だったのではないかという穿(うが)った見方が含まれているからだ。しかし、斎藤の粘り強さは偶然ではない。相手の呼吸を感じ取って計る間合い、平気で逆球を投げ込む大胆さ、いざという場面での正確なコントロール、135キロでも十分なだけのキレがあるストレートと、ワンバンになるスライダー、懐に投げ込むカットボール、タイミングを外すチェンジアップなどの変化球──そうした裏付けがあってこそ、相手のスコアボードにはゼロが並んでいるのだ。この日も、スコアリングポジションにランナーを背負って対峙した10人のバッターをヒット1本だけに抑えた。

 得点圏にランナーを背負ってからギアを上げるのならば、最初から上げておけばいいという声も聞こえてくる。ただ、最初からギアを上げて投げていては、その分、ガソリンを食ってしまう。ランナーがいない場面ではストライク先行のピッチングをして、ランナーを背負ってからは極力、平行カウントをキープしながら、ボール球をうまく使っていく。先発ピッチャーとして長いイニングを投げるためのエコを意識しながら、いざというときには球数をかけても確実にバッターを抑えるためのギアを上げていく、ハイブリッドなピッチング。試合後、吉井理人ピッチングコーチはこう話していた。

「今日は点差が開いたけど、展開を作ったのは佑ちゃんのピッチング。初回をよく抑えてくれたと思う。今日はストレートがよかったよ。ストレートそのものというより、ストレートの使い方がよかったね」

 斎藤がゼロを3つ並べた3回裏、4番の中田翔が3ランを放ってファイターズが先制。栗山監督がこだわったエースと4番──斎藤と中田がベテラン稲葉の記録に華を添えたこのゲームは、チームにとっても大きな意味を持っていた。結局、先発全員安打の猛打でファイターズが9-2とリードしたところで斎藤は交代。7回2失点、110球を操っての4勝目は大きなニュースにはならなかった。それでも開幕から先発した6試合、すべてがクオリティスタート。プロ2年目にして、斎藤の周りには勝って当たり前の空気さえ漂い始めている。斎藤は試合後、こうコメントした。

「月も変わりますし、相手の調子も、自分の投球も変わってきているので、もう一度、引き締め直したいと思って投げました。今日も6回、7回は思った通りに投げられなかったので、気持ちを緩ませないで、9回まで投げ切らないといけないと……まだまだ上を目指してやりたいですね」

 5月になって“ツキ”が変わっても、斎藤には依然として追い風が吹いている。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る