【プロ野球】田中将大との宿命の対決で斎藤佑樹が感じたエースの仕事 (3ページ目)
今年から、斎藤はキャッチボールへの意識を変えている。低い弾道のボールを、より遠くへ投げる──遠投するとき、高く上げないように意識しながら投げているというのだ。試合前、斎藤は平地で約30メートルの距離からのボールを、必ず10球投げる。これは大学時代からの習慣で、斎藤はその意図をこう話していた。
「あの距離でまっすぐなボールを投げておいて、いざマウンドから投げたときにはキャッチャーのミットを突き抜けるようなイメージを持ちたいんです」
その30メートルのキャッチボールの距離が、今年は伸びている。正確に計ったわけではないが、おそらく40メートル近くまで伸びているのではないか。この距離で低い弾道のボールを投げるためには、ボールをわずかながら前で離すイメージが必要になるのだと斎藤は言っていた。そのための体の使い方のヒントをこのオフ、掴んだのだとも話していた。決して力任せに投げるのではなく、軽く投げるイメージで体幹を効果的に使い、腕を速く振り、ボールを前へ運んでくる。
斎藤がこの日、試合中に意識したのは、コントロールよりも、そのイメージだったのではないか。脱力がストレートのキレを生む。実際、斎藤は2回の高須に対しては6球、3回のツーアウト満塁のピンチで迎えた内村に対しても4球、すべてストレートを投げ込んだ。この斎藤ならではの機転が、2杯目のワインの味わいを一変させたような気がしてならない。栗山英樹監督に「なんでこんなに悪いんだろうと言うくらい最悪だった」と言わしめた斎藤が、終わってみれば6回を2失点に抑えた。しかも失ったのは、満塁で打たせた内野ゴロの間に許した1点と、エラー絡みで自責にならない1点。内容はともかく、残した結果はエースの仕事に相応しかった。だから栗山監督はこうも言ったのだ。
「今日が大事なんだ、今日みたいな日にどんなピッチングをするかが信頼につながるんだと佑樹に話しました。いいときに勝てるピッチャーだというのはもうわかってる。あれだけ悪い中でどう試合を作っていくのかというところに、前へ進むヒントがあるし、それこそがエースの仕事なんです」
試合後の斎藤に、修正はできたのかと訊くと、彼は「できてはいない、後半、フォアボールがなかったんですけど、指にかかったボールは少なかった」と言った。それでも、苦しい中でストレート勝負をした真意を問うと、斎藤はこう言葉を絞り出した。
「全部の球が使いづらかったんで……バッターと対戦しているというより、自分の中でもがいているという感じでしたね」
バッターを見ると変化球を使ってしまう。自分で納得のいくボールを投げるところから光を見出そうとする高い意識が、試合中の斎藤にキャッチボールを思い出させ、ストレートで押すピッチングを選ばせた。6回3分の0、113球のピッチングは、じつは、いよいよこれから本領を発揮するのかもしれないという、不思議な予感を漂わせていた。
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