【プロ野球】開幕戦、プロ初完投勝利。斎藤佑樹が解いたひとつの封印

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

開幕戦でプロ初完投を飾った斎藤佑樹開幕戦でプロ初完投を飾った斎藤佑樹 2年目に懸ける、彼の決意を感じた。

 初めてとなる開幕戦のマウンドに立った斎藤佑樹は、ゆっくりと投球練習を始めた。もちろん、緊張感は十分に伝わってくる。ダルビッシュ有が抜けたファイターズにあって、3年連続で2ケタ勝利をマークしている武田勝を差し置き、去年、6勝6敗だった斎藤が開幕投手を務めるのだ。その重みは、いかに図太い斎藤といえども感じていただろう。

 そんな斎藤の想いを推し量っていたら、ふと、あることに気づいて仰天した。

 なんと、斎藤がプレートの三塁側を踏んで投げているではないか。

 もちろん、投球練習だけではない。ライオンズの1番バッター、エステバン・ヘルマンに対する初球。138キロのストレートを投げ込む斎藤の足元を確認すると、確かに三塁側を踏んでいる。

 これは、プロ2年目を迎えた斎藤が、いくつかの封印のうちのひとつを解いたことを意味していた。じつはこのオフ、斎藤がこんな話をしていたことがあった。

「1年目はずっとプレートの真ん中を踏んで投げてました。そこを変えると、よかったことと、悪かったことの理由がわかりにくくなります。だから、1年目はいくつかの引き出しは開けずにやってみたかったんです」

 大学時代、斎藤はさまざまな試行錯誤を続けていた。そのうちのひとつが、プレートのどこを踏んで投げるかということだった。3年春の早慶戦で、斎藤は慶大の左バッターに対して突如、プレートの一塁側を踏んで投げたことがあった。一塁側を踏んで左バッターのアウトコースへ投げ込む斎藤のストレートは、クロスファイヤーとは逆の対角線の軌道に乗って、遠くへ逃げていく。左バッターにしてみれば、いつもの斎藤が投げるボールをイメージして振ると、ボールはバットの先に当たってしまった。実際、慶大の左バッターは斎藤のアウトコースへの勝負球に対し、ことごとく左方向への打球で打ち取られていた。しかも斎藤は右バッターに対してはプレートの真ん中を踏み、左バッターが打席に入ると、またさり気なくプレートの一塁側を踏んで投げていた。すでに両校ともに優勝の可能性は消えた伝統の一戦で、斎藤は引き出しを増やすアプローチに取り組んでいたのだ。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る