【プロ野球】野村祐輔が見せた、はじめての弱気な姿
昨年のドラフトで広島から1位指名を受けた野村祐輔安倍昌彦の投魂受けて~第15回 野村祐輔(キャンプ編)
宮崎市から南におよそ50キロ。広島東洋カープがキャンプを張る日南・天福球場に向かった。昨秋のドラフトで広島に1位指名を受けた野村祐輔に会いたかったからだ。
昨春、彼のボールを受けてから、リーグ戦の神宮や練習のグラウンドで、何度も言葉を交わしていた。
熱く望まれて、故郷のカープに1位指名され入団。ファンも球団も、これ以上の期待の星はないだろう。
室内のブルペン。一軍投手7人がズラリと居並ぶ中、いちばん右のマウンドで野村が投げていた。すぐ横のトビラが大きく開けられて、遠路はるばる日南までやって来た熱心なファンが、黒山の人だかりとなって彼に注目する。
ブルペンでの野村は、いつもの「野村祐輔」だった。
自分の右に6人並ぶ先輩たちを気にすることもなく、ファンの動きに目をやるでもなく、捕手のミットだけに視線を集中しておよそ70球。9割近くが、捕手がミットを構えるそのピンポイントにきまった。
ブルペンから球場に引き上げてきた彼と通路の向こうから目が合った。トイレに入ったこちらを追うように、野村も入ってきた。
「おつかれ」と声をかけたら、「自分、よくなっていますか?」と、手を洗いながら問いかけてきた。
こんなことを訊くヤツじゃなかった。
「なんでも一番のピッチャーになりたい」
学生時代、いつも言っていたこのフレーズ。
「オレより上のピッチャーがいるわけがないだろ」
そんな矜持(きょうじ)の裏返しと解釈していた。
「相変わらず、コントロールすごいよ! 全部ここじゃない」
左手でミットを作って、構えてみせた。
「......」
気が弱くなっているのかな......。
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