【プロ野球】背番号「55」の後継者・大田泰示、4年目の覚醒なるか?

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 青山浩次●写真 photo by Aoyama Koji

「江藤はね、レフト方向にだけは大きいのが打てた。しかし、センターから右へはからっきしダメだった。ただ、右に打てるようになれば試合で使えることは分かっていたから、育てがいはあったよね。右に打てない理由は軸足となる右足首にあった。打つ際にそこに力が入らないから、体が開いてしまって右方向には飛ばなかった。走り込みを徹底させ、下半身の力を上半身に伝えることを教えたら、5年目にホームラン王を獲りよった(笑)。一方、中村ノリはね、当時(入団3年目の94年)、あの足を大きく振り上げるフォームが不評でね、コーチや評論家の誰もが批判的だった。ただ私は彼のフォームを見て、『おお、スケールのでかいバッティングやないか。頑張ったらいけるで』と声をかけた。するとノリは目を輝かせて、気持ちよく打てるようになった。批判されてばかりで落ち込んでいたからね。たった一言で、才能が開花することもあるのが、大砲なんです」

 また、水谷氏は高校時代の中田翔も強く印象に残っているという。

「中田の高校時代は135キロまでならとてつもなく大きいのを打っていたけど、それ以上の球速となるとついていけなかった。昨年、ノーステップにフォームを変えて、スピードについていけるようになった。着実に進歩していますね」

 ならば、水谷氏の大田評は?

「体も大きいし、高校のときはたくさんホームランを打っていたわけだから、素晴らしい素質を感じます。ただ今の打ち方だと、いわゆる大砲としては厳しいかもしれんね。大きいのを打つには、懐にゆとりをもって、腰の回転で打つことが大事になるわけですが、まだそれができていない。特に試合になると、結果を求めるあまり、手で当てにいってしまう印象を受けます。もちろん、4年目、5年目に飛躍することは十分あり得るし、中距離打者として大成する可能性もある。勝ちを宿命づけられる巨人では、結果の出ない選手をスタメンでは使いにくい。他球団であれば、『育成』を目的に試合で使い続けることはできるけどね」

 このオフ大田は、阿部慎之助のグアム自主トレにも帯同し、今シーズンの才能開花を予感させるようなキャンプを送っている。実戦練習がスタートすると、紅白戦や練習試合でヒットを重ね、2月22日の韓国・LG戦では、4打数3安打、2盗塁と大活躍をみせた。

 送球難が指摘され続けた三塁のポジションに見切りをつけ、今季から足と肩を生かせる外野手転向を決断。守備の負担が減ったことで、打撃に明るい光が射してきた。原辰徳監督はセンターだった長野久義をライトに回し、この空いたポジションを大田と09年の新人王・松本哲也とで競わせる方針を明かしている。主将の阿部も、「飛ばす才能はやっぱりすごい」と大田の才能を認め、一軍における「結果」を主将として誰よりも心待ちにしている。

 心機一転をはかった大田が、大砲への足がかりをつかむとすれば、やはりレギュラーシーズンでの1本だろう。4年目の覚醒へ――今は汗と泥にまみれる日々を送っている。

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